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2024年12月25日 12:00

更新

2025年2月25日 2:47

VOL28.【健康・スポーツ医学】スポーツ活動中の重大事故の管理と予防(2) 頭部外傷とスポーツ

全体公開

はじめに

 皆様は、スポーツを通じた活動を実施する上で、参加者の怪我・傷害の予防を講じていますか?スポーツを用いた国際開発に従事するアクターは、基本的な知識の一つとして、スポーツ外傷・障害の予防方法を理解しておく必要があります。特に、頭部外傷は危険であり、管理と予防方法を理解する必要があります。

 スポーツ現場での頭部外傷は、競技レベルを問わず様々なシーンで発生します。一見して重大な事故と認識できるものもあれば、はじめは軽く頭をぶつけただけと思っても、後になって重症化するケースもあるため、競技続行の可否判断は細心の注意を要するものです。本稿では「頭部外傷とスポーツ」を取り上げ、特に指導者として知っておくべき脳震盪のリスクと予防について考えていこうと思います。

 

<頭部外傷について>

 頭部外傷とは頭のケガの総称で、ボクシングのように頭部に直接打撃が加えられるスポーツ以外に、スキーやスノーボード中の転倒や、野球やサッカー、バスケットボールなどのプレー中に勢いよく衝突することによって発生します。頭部外傷の中で比較的よくみられるのが、スポーツ関連脳震盪(Sports Related Concussion; SRC)と呼ばれているものです。SRCは、頭部・顔面・頸部への直接的な外力や、他の部位への間接的な外力が頭部に伝達されたときに生じる一過性の脳機能障害のことを指します。主な症状は頭痛ですが、健忘やバランス障害、混乱などが早期に見られます。通常は時間とともに自然に回復していきますが、時間をかけて進行していくものもあるため、決して軽く考えてはいけないケガです。

 

<SRCの評価>

 スポーツ現場に専門的な医師がいることは稀ですので、SRC発生後はほとんどの場合、監督やコーチ、あるいは選手が対応することになります。頭部外傷の中には、初期評価が生死を決定づける場合がありますが、実際に頭を打った選手がいた場合にどうすれば良いのかは判断に迷うものです。よって、スポーツ現場で活動する際は、最悪の事態に備えて最低限の評価ツールを理解しておく必要があるでしょう。脳震盪評価ツールの代表的なものとしては、国際スポーツ脳震盪会議(Concussion in sports Group; CISG)が公表している医療従事者用ツール「Sports Concussion Assessment Tool 6(SCAT6)」や、5~12歳の小児に用いる「Child SCAT 6」がありますが、医療従事者でない場合は「Concussion Recognition Tool 6(CRT 6)」を用います。


<CRT6について>

 CRT 6は前身となるCRT 5が更新された最新版で、本項の執筆段階では和訳は公表されていません。一方、CRT5の内容自体が否定されたわけではないので、適切にCRT5を参照・活用することが推奨されています。CRT5およびCRT6は、受傷後72時間以内(最長でも1週間)に使用するのに最適なツールですが、脳震盪を診断するためのものではなく、あくまで現場における脳震盪を見逃さないために開発されたものです。よって、以下の警告(Red Flags)が認められたら活動を中断するとともに、周りに医療従事者がいない場合はその場から不用意に動かさずに直ちに救急車を呼ばなければなりません。


非医療従事者用脳震盪評価ツール;CRT6


<SRCの予防>

 SRCの予防としては、(1)競技ルールの変更、(2)装具や用具の開発、(3)トレーニング、(4)予防マネジメントが挙げられます。(1)では、アイスホッケーの青少年リーグにおいてボディチェックを禁止にしたところ、試合中の脳震盪の発生率が58%減少したという報告や、ラグビーのタックルの高さを改正したところ、頭や首に接触する頻度が30%減少したという報告があります。(2)はヘルメットやマウスガード、ヘッドギアの改良、(3)は神経筋トレーニングであり、ラグビーの国際連盟であるワールドラグビーが推奨するActivate という傷害予防エクセサイズプログラムの調査によると、このトレーニングにより脳震盪が最大60%減少するとしています。また(4)は、年齢や性別、競技スキル、トレーニングなどを多面的アプローチすることが予防に繋がることを示しており、サッカー発祥のイングランドサッカー協会は、子どもがヘディングを繰り返すことが発達中の脳に悪影響を及ぼすとして、11歳以下までのチームは原則禁止としています。

 スポーツの事故予防に関する最新のトレンドは、医師や医療従事者によるリスクマネジメントから、教師を含む現場の指導スタッフへの教育にシフトしています。頭部外傷は専門家だけが理解しておけばよいのではなく、全てのスポーツ指導者が基礎的教養として身につけることが、子どもの命を守ることにつながるという認識を持つ必要があるでしょう。


参考文献 

執筆者

中村浩也(なかむら ひろや)桃山学院教育大学人間教育学部学部長・教授

1971年 兵庫県生まれ。大阪教育大学卒業、同大学院教育学研究科修了。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科単位取得満期退学。博士(教育学)。高校教師、JICA海外協力隊等を経て、現在桃山学院教育大学人間教育学部学部長・教授。専門領域は教育学、スポーツ医学。総合型地域スポーツクラブ「桃教スポーツアカデミー」理事長、ローレウス財団「スポーツを通じた女子生徒のリーダーシップ開発」プロジェクトマネージャー。


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