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2024年5月8日 12:00

更新

2024年6月17日 1:55

VOL12.【健康・スポーツ医学】スポーツ外傷・障害の予防に向けた4ステップとは?

全体公開

はじめに

 皆様は、スポーツを通じた活動を実施する上で、参加者の怪我・傷害の予防を講じていますか?スポーツを用いた国際開発に従事するアクターは、基本的な知識の一つとして、スポーツ外傷・障害の予防方法を理解しておく必要があります。健康・スポーツ医学シリーズ第1回目では、スポーツ外傷・障害の発生要因と因果モデルの動向について紹介しましたが、今回は、スポーツ外傷・障害の予防に向けた概念モデルである ”Sequence of Prevention” をもとに、4つのステップについて考えていこうと思います。

 

<スポーツ外傷と障害について>

 スポーツ活動における外傷・障害の一般的な受け止め方は、a) スポーツは本質的に受傷リスクを内在している、b) スポーツに参加する者は、そのリスクを承知して活動している、c)よって、スポーツ外傷や障害が発生しても基本的には本人の自己管理上の問題である、というものです。この考え方は、プロ・アマ問わず、これまで慣習として受け入れられてきましたが、予防に関する科学的知見が日々更新されていく現代においては、自己管理上の問題だけで捉えられにくくなっているのも事実です。

とりわけ、若年層のスポーツなど、対象者にスポーツ医学に関する基礎的理解に課題がある場合は、管理者がスポーツ事故の発生リスクを低減する対策を講じることは当然の責務といえます。例えば、熱中症は暑さを避け、適切に水分を摂取することで予防ができるという認識が広まっていますので、暑熱環境下で適切な水分補給の機会を設けるなどの対策が不十分であれば、安全配慮の是非を問われかねません。これらの「科学的根拠に基づく実践(Evidence-Based Practice; EBM)」は、スポーツ外傷・障害に対する基本的姿勢に大きな影響を与えており、今後は様々な受傷リスクに対する運営体制の整備や、緊急を要する事態を想定した行動計画が重視されていくでしょう。

 

<スポーツ外傷・障害の予防の4ステップ>

 スポーツ現場における外傷・障害の管理の不備は、スポーツ参加者の発育障害や後遺症による健康・機能障害、またスポーツ活動からのリタイアや忌避を生み出し、スポーツ文化を担う若き才能の芽を摘むばかりでなく、生涯にわたりスポーツを愛好し,実践・継続する機会を失わせることにつながります。この状況を放置しないためには、スポーツ外傷・障害の予防の概念を理解し、実践していくことが重要です。

 van Mechelenらは、スポーツ外傷・障害の予防モデルとして、“Sequence of Prevention” を提唱しています。このモデルは、以下の4つのステップから成り立っています。まず第1ステップでは、競技種目に応じた外傷や障害の特徴、発生率、重症度などの情報を収集し、スポーツ参加者の受傷リスクを把握することを始めます。例えば、あなたが少年野球に関わっているなら、少年野球でみられるスポーツ外傷・障害の発生状況をもとに、自身のチームの現状を調査してみることです。そこで課題が抽出されたなら、それは選手単独のものなのか、あるいは複数名が同じ訴えをしているか、さらに単位時間あたりの発生率の動向などを把握します。

この取り組みは、以後のステップに向けた重要な手掛かりになります。第2ステップでは、第1ステップで抽出された課題について,発生メカニズムやリスクファクターなどを検討します。仮に、肩や肘の障害が懸念されるのであれば、その発生メカニズムの特徴を知るとともに、体力の発達段階や投球フォーム、投球数などに目を配り、個々の受傷リスクを整理していきます。第3ステップでは、第2ステップでの情報をもとに、予防的介入を行います。試合数が多く、肩や肘に過度な負担がかかっている可能性があるならば、登板回数や投球数をコントロールすることや、練習メニューにコンディション調整を目的としたトレーニングを取り入れるなど、具体的な対策を行います。第4ステップでは、第3ステップにおける介入の効果検証を行います。ここで、抽出された課題が解決されていない場合は、改めて第1ステップの情報収集から再考するいう流れです。

 これらのスポーツ外傷・障害の予防に向けた概念モデルから得られる知見は、専門的な疫学調査の動向とあわせて、選手やチームの受傷リスクの特徴を客観的に捉える手助けになります。スポーツ外傷・障害はどうしても事前に予測しきれないこともありますが、今回紹介した4つのステップを実践することによって、スポーツに参加する人の健康が維持・向上できる可能性があることを理解しておくことが重要でしょう。

 

 

図1.スポーツ外傷・障害の予防に向けた概念モデル(改変して引用)

参考文献 

  •  van Mechelen W., Hlobil H., & Kemper HC.;Incidence, severity, aetiology and prevention of sports injuries. A review of concepts. Sports Medicine 14(2), 82–99,1992


執筆者

中村浩也(なかむら ひろや)桃山学院教育大学人間教育学部学部長・教授

1971年 兵庫県生まれ。大阪教育大学卒業、同大学院教育学研究科修了。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科単位取得満期退学。博士(教育学)。高校教師、JICA海外協力隊等を経て、現在桃山学院教育大学人間教育学部学部長・教授。専門領域は教育学、スポーツ医学。総合型地域スポーツクラブ「桃教スポーツアカデミー」理事長、ローレウス財団「スポーツを通じた女子生徒のリーダーシップ開発」プロジェクトマネージャー。


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