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2025年3月19日 12:00

VOL35.【アンチ・ドーピング】未来のスポーツを担う人材育成―アカデミーとしてのクリーンスポーツ

全体公開

はじめに

 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は2014年から国際的スポーツ分野に必要とされる人材を育成するための学位プログラム、TIAS(Tsukuba International Academy for Sport Studies)のカリキュラムとして筑波大学と連携しアンチ・ドーピングの授業を実施しています。この授業では、「スポーツにおけるフェアネス」を主軸とした授業を通して得た学びや経験を、学生たちが将来の職業に活かすことで、国や業種・専門性を越えてクリーンスポーツの観点や価値観を持った未来のスポーツのリーダーを育てることを目的にしています。2024年度では11名の学生が大学キャンパス内での座学、JADAがアジア・オセアニアのアンチ・ドーピング機関の実務者を対象に毎年開催している2024年度アジア・オセアニア国際アンチ・ドーピング・セミナーへの参加を通して知見を深めました。

国際的スポーツ人材育成にJADAが携わる理由

 アンチ・ドーピングには全世界・全スポーツ共通のルールとして「世界アンチ・ドーピング規程(World Anti-Doping Code:Code)」があります。Codeにあるクリーンでフェアなスポーツ環境を守り、クリーンスポーツに参加するアスリートの権利を守るためには、アスリートだけでなく、アスリートを取り巻く人々「アントラージュ(entourage)」の「スポーツの価値」に対する理解増進が必要不可欠です。

 TIASの学生たちが将来、スポーツの未来を支えるリーダーとして活躍することを願い、JADAの実施するアンチ・ドーピングの授業では、自国だけではなく世界各国・地域が対面するスポーツの境遇を俯瞰した視点で捉え、クリーンでフェアな環境を守るために自身がどのようなアクションを起こすことができるのかを考える機会を取り入れています。

 

「ペーパータワー」を通したクリーンなスポーツ環境への理解

 2024年度のTIASの授業では「ペーパータワー」のアクティビティを通して直面するアンフェアな場面に対してどのような意見・考えを持つかを体験した上で、スポーツの価値やルールの大切さを実感し、どのようにクリーンでフェアな環境を作っていけるかを学びました。

 アクティビティのルールは単純で、指定された用紙を使いより高いタワーを建てたチームが勝者となります。1回目はどのチームも「同じルール(フェアな環境)」で実施し、2回目は限られたチームに「特別ルール」を追加し、あえてアンフェアな環境をつくります。他のチームに特別ルールが追加されたことを知らないチームは、突如起こったアンフェアな環境に戸惑い、悔しさから自らもルールを逸脱して行動する学生もいます。

 

 そこから、1回目と2回目を比べて「ゲームに集中できたのはどちらの環境か」「特別ルールについてどう感じたか。なぜか。」などをディスカッションし、スポーツがクリーンな環境で行われることの重要性や難しさを理解します。また、このようなアンチ・ドーピング教育が、全世界・全スポーツに共通するルール(Code)のもと、クリーンでフェアな環境を守ることに繋がることを学習しました。

 後日開催されたアジア・オセアニア国際アンチ・ドーピング・セミナーでは、TIASの学生は授業の一環として参加し、各国・各地域から集まったアンチ・ドーピング機関の職員に対して「ペーパータワー」を紹介しました。このセミナーを通してTIASの学生たちは、アンチ・ドーピングに関する世界的な動向や各ステークホルダーに与えられるミッションについて学び、自国で活動している国内アンチ・ドーピング機関がどのような取り組みを行っているのかについても知識を深め、国際的なスポーツ人材としての素養を磨く機会になったと考えています。

今後求められる国際スポーツ人材

 世界アンチ・ドーピング規程(Code)並びにCodeに付随する9つの国際基準(注1)は定期的に改定され、次の改定を2027年1月に控えています。規程改定の際にはアスリートやアントラージュ、競技団体、アンチ・ドーピング機関など誰もが意見を述べることができ、みんなで共通のルールを作っていくことが大きな特徴です。

 2027年1月の改定では、クリーンスポーツにおける教育の重要性がさらに明示化され、国際基準の一つである「教育に関する国際基準」では、特にサポートスタッフに対する教育がより重要視される方向性が提示されています。スポーツやアスリートを支えるサポートスタッフは、アスリートの行動や価値観に大きな影響を与えることがアンチ・ドーピングの社会科学研究(注2)でも示されています。JADAはTIASの学生のような、国内外に向けて広い視野を持ち、将来クリーンでフェアな環境を守ることに日々邁進する世界的スポーツ人材(仲間)の育成に担われることは、とても意義のあることだと考えています。

 スポーツの価値を守り、より良い社会をつくる活動を推進されているSFTC会員の皆様で、もしペーパータワーアクティビティ(注3)や各国のクリーンスポーツ環境を守る活動などにご関心がございましたら、JADAまでお問い合わせいただければと思います。

注1)世界アンチ・ドーピング規程:https://www.playtruejapan.org/code/provision/

注2)WADAの社会科学研究:https://youtu.be/9y1VYw5LWDc

注3)ペーパータワーアクティビティ:https://www.playtrue2020-sp4t.jp/edu_package/

 

参考文献

TIAS

https://tias.tsukuba.ac.jp/

アジア・オセアニア国際アンチ・ドーピング・セミナー

https://playtrue2020-sp4t.jp/jp/static/report2020/

World Anti-Doping Code/世界アンチ・ドーピング規程

https://www.playtruejapan.org/code/provision/(日本語訳)

クリーンスポーツ・アスリートサイト

https://www.realchampion.jp/

PLAY TRUE 2020

https://playtrue2020-sp4t.jp/jp/

Real Champion Education Package

https://www.playtrue2020-sp4t.jp/edu_package/

 

執筆者情報

○窪園 仁希(くぼぞの みき)公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構 教育部 教育推進グループ

2022年JADA入職時よりJADA加盟団体を対象にアンチ・ドーピング教育会議の開催や禁止表国際基準のウェビナーを制作。IF(国際競技連盟)パートナーシップ事業では福岡世界水泳2023や神戸世界パラ陸上競技大会でのアウトリーチを実施し、WADAの運用するeラーニング学習ツールの「ADEL」翻訳やJADAが提供する「Real Champion Education Package」の教材翻訳を担当。

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