
2024年10月2日 12:00
VOL21.【アンチ・ドーピング③(最終回)】SFTC会員団体との連携による 「スポーツの価値」を基盤とした教育
全体公開
はじめに
今回の記事は、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)から発信する3回シリーズの最終回となります。初回の記事では、アンチ・ドーピングがトップアスリートだけに関係するものではなく、スポーツを通した国際交流や協力の基盤とも言える「スポーツの価値」を育み・創り、スポーツの価値を未来につなげることを目的にしていることをお伝えしました。この目的は、「スポーツの価値を世界中に届ける」というスポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)の趣旨と共通します。2回目の記事では、アンチ・ドーピングのルールは「全世界・全スポーツ共通のルール」であるからこそ、アンチ・ドーピングがスポーツを通した国際協力の一領域になりうることを紹介しました。今回の記事では、JADAが、スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム(SFTC)の会員団体と連携して取り組んできた事例とJADAで制作している教材についてご紹介します。
スポーツの価値を基盤とした教育
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定める「世界アンチ・ドーピング規程(Code)」及び「教育に関する国際基準(International Standard for Education)」では、国際競技連盟や各国アンチ・ドーピング機関、大会組織委員会など、クリーンスポーツに関わる各組織が果たすべき教育の役割が定められ、オリンピックやパラリンピックに出場するアスリートやサポートスタッフ、様々なスポーツの競技団体(International Federation/National Federation)に登録しているアスリートやサポートスタッフへの教育環境整備が発展しつつあります。一方で、開発途上国の子どもたちや障がいのある人たちは、スポーツに参加する機会とともに、スポーツの価値を基盤とした教育(「スポーツの価値」に気づき、深め、実践する教育)を受ける機会も十分に得られていない現状があります。しかし、「スポーツの価値」を守り・創るというアンチ・ドーピングの目的から考えると、アスリートやサポートスタッフだけではない、全ての人たちと「スポーツの価値」について考え、共有する機会を創ることは意義があります。
そのような考えから、JADAではSFTC会員団体と連携し、開発途上国の子どもたちや障がいのある人たちへの教育を実施してきました。例えば、カンボジアで学校を廻って移動式映画館の活動を行っている団体と連携し、スポーツをテーマにした映画の上映に合わせて、スポーツの価値について考えるワークショップを実施しました。また、各国の児童施設や学校等で活動するJICA海外協力隊に対して、JADAの教材を活用するためのセミナーを実施しました。東京2020大会に向けてJADAが進めてきたスポーツの価値についてのメッセージリレー「i-PLAY TRUEリレー」では、JICA海外協力隊やSFTC会員団体、各国大使館などを通して、アジア・アフリカ・南米など世界中の子どもたちや障がいのある方など約4万6000人から、多様な「スポーツの価値」についてのメッセージが寄せられています。
リアルチャンピオン教育パッケージ
上記のような活動において、大きなハードルとなるのは「言語」です。国や地域によって使われている言語は異なり、日本で活用している教材がそのまま海外で活用できるとは限りません。そこで、JADAでは、言語に依拠しない教材「リアルチャンピオン教育パッケージ」を制作しています。この教材は、アンチ・ドーピングのルールを理解することとともに、「スポーツの価値」に対する考えを深めることを目的に制作しており、プレゼンテーションスライドや動画、ワークシートなどアンチ・ドーピング教育に活用できる様々な教材をパッケージ化しています。動画は、どの国の子どもたちでも理解し、「スポーツの価値」について考えるきっかけを与えられるように日本の文化でもあるマンガ(オリジナルキャラクター)を取り入れ、言語に拠らずに利用できるノンバーバルな教材としています。
JADAでは、どこの国でも活用できるように制作した「リアルチャンピオン教育パッケージ」というマテリアルと、開発途上国のアスリートやサポートスタッフ以外の人々とネットワークを持つSFTC会員団体の強み・機会のマッチングにより、「スポーツの価値」を基盤とした教育を今後も世界中に広げ、スポーツの価値を護り、創造していく人材や、そのスポーツの価値を通して社会や未来を創造していく人材の育成を目指せればと考えています。
参考文献
スポーツの価値を基盤とした教育
https://www.school.playtruejapan.org/
リアルチャンピオン教育パッケージ
https://www.playtrue2020-sp4t.jp/edu_package/
執筆者情報
○堀さやか(ほり さやか)公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構 教育部教育・企画グループ グループ長代理
2013年JADA入職時より、SFT事業を担当、言葉に依拠しないスポーツの価値・マンガ教材「Real Champion Education Package」の制作や、 Tokyo2020大会のレガシー事業であり、エンゲージメントブース「PLAY TRUE Planet~Sport & Art」を担当。大切にしているスポーツの価値は「Sport is universal and connects people!」
○岸卓巨(きし たくみ)公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構 教育部教育・企画グループ グループ長補佐
国際協力機構(JICA)青年海外協力隊、スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム(SFTC)事務局を経て、2018年にJADAに入職。SFTの一環としてアンチ・ドーピング分野での国際協力に従事。現在は、国内競技団体への教育に関するコンサルテーションや、主にアジア・オセアニアのアンチ・ドーピング機関の実務家を対象とした国際セミナーの開催など幅広い業務を担当
過去の記事
独立行政法人 日本スポーツ振興センター
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