
2024年4月10日 12:00
2024年9月24日 11:52
VOL10.【スポーツと開発概論】フランスにおける「スポーツと開発(Sport and Development)」に関する取り組み ーその1ー
全体公開
はじめに
スポーツと開発概論の第2回目(第1回目はこちら)は、フランスの政府開発援助(Official Development Assistance: ODA)実施機関であるフランス開発庁(Agence Française de Développement: AFD)が取り組む「スポーツと開発(Sport and Development)」注)についてご紹介いたします。
2013年東京オリンピック・パラリンピック開催決定を契機に「スポーツ・フォー・トゥモロー(Sport for Tomorrow: SFT)」が発足しました。SFTは、2014年から2021年までの8年間、世界の人々にスポーツの価値や喜びを届ける活動を行ってきました。そして、2024年夏、パリオリンピック・パラリンピックが開催されます。
2024年パリオリンピック・パラリンピックに向けて、フランスでは「スポーツと開発」に関するどのような取り組みを行っているのでしょうか。
注)「JICA『スポーツと開発』事業取り組み方針」(2018)では、スポーツそのものの普及や支援を行う「スポーツの開発」、スポーツを通じて開発途上国が抱える社会課題の解決を目指す「スポーツを通じた開発」、この両者を含んだ概念が「スポーツと開発」とされています。
オリンピック・パラリンピックと「スポーツと開発」の背景
岡田(2015)は、オリンピック・パラリンピック大会の開催国であった、オーストラリア、カナダ、イギリス、などがこれまで積極的に「スポーツと開発」を採用してきたと報告しています。
オーストラリア:2000年シドニー大会が開催されたオーストラリアでは、ODAの実施機関であるオーストラリア国際開発庁(Australian Agency for International Development: AusAID)やオーストラリア・スポーツ・コミッション(Australian Sports Commission: ASC)等を中心に、カリブ海やアフリカ諸国などで「スポーツと開発」を行ってきました。
カナダ:2010年バンクーバー大会が開催されたカナダでは、コモンウェルス・ゲームズ・カナダ(Commonwealth Games Canada: CGC)を中心に、「スポーツと開発」が施策として掲げられ、取り組みが展開されてきました。
イギリス:2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック大会が開催されたイギリスでは、非省庁公的機関であるUKスポーツ(UK Sport)などが中心となり、オリンピック・パラリンピック開催決定を契機に2005年から「インターナショナル・インスピレーション・プログラム(International Inspiration Programme: IIP)」が開始され、「スポーツと開発」に取り組んできました。
フランスにおける「スポーツと開発」
フランスのAFDは、2019年2月「スポーツと開発」戦略を採択し、以下3つの柱を掲げ、「スポーツと開発」戦略に取り組んでいます。
AFDにおける開発の事業にスポーツを取り入れること
「スポーツと開発」の取り組みにおいて様々な関係団体とパートナーシップを構築していくこと
「スポーツと開発」に関する研究及び知識の共有をサポートしていくこと
また、フランスのAFDが2012年から2022年まで取り組んできた「スポーツと開発」の成果として、主に以下の3点が挙げられます。
スポーツに対して約1億3,000万ユーロの投資がなされたこと
160件の「スポーツと開発」に関するプロジェクトに活動資金の提供が行われたこと
アスリート74名が「スポーツと開発」に関するプログラムを通じてサポートされたこと
フランスAFDと「共通のスポーツ(Sport en Commun)」
2017年、マクロン大統領の演説を契機に、フランスのAFDは、アフリカにおける「スポーツと開発」の実施に向けたプラットフォーム「共通のスポーツ(Sport en Commun)」を開設しました。Sport en Communには、日本のODA実施機関、国際協力機構(Japan International Cooperation Agency: JICA)も加盟しています。Sport en Communにおける、具体的な取り組みの事例は以下の通りです。
女児を対象にサッカーを通じてジェンダー平等を目指す活動(セネガル)
若い女性を対象にラグビーを通じてジェンダー平等を目指す活動(マダガスカル)
若者を対象にスポーツイベント通じて環境保全の意識を高める活動(ケニア)
知的に障がいを抱える子どもを対象にスポーツの機会を通じてウェルビーイングを高める活動(タンザニア)
若者を対象にバスケットボールを通じて教育の機会や雇用の機会を創出する活動(コートジボワール)
Sport en Communでは、JICAによる「レディース・ファースト(Ladies First)」などの取り組みも紹介されています。
フランスでは、2024年パリオリンピック・パラリンピックに向けて、そしてダカール2026ユースオリンピック開催に向けて、引き続き「スポーツと開発」に取り組んでいくことになっています。
参考文献
JICA: スポーツと開発.「スポーツと開発」事業取り組み方針.
https://www.jica.go.jp/Resource/activities/issues/sports/ku57pq00002lc8qo-att/policies_sports.pdf
岡田千あき:国際社会における「開発と平和のためのスポーツ」の20年:我が国のスポーツ・フォー・トゥモロー政策の発展に向けて.大阪大学大学院人間科学研究科紀要.41.99-118.2015.
AFD: SPORTS AND DEVELOPMENT.
https://www.afd.fr/en/page-thematique-axe/sports-and-development
AFD: AFD and Sport
https://www.afd.fr/en/ressources/afd-and-sport
Sport en Commun:Our Objectives.
https://sportencommun.org/en/our-objectives/
Sport en Commun: Projects.
https://sportencommun.org/en/projets/
執筆者
山平芳美(やまひら よしみ)立命館大学 スポーツ健康科学部 准教授
立命館大学スポーツ健康科学部准教授。専門分野はスポーツ国際開発学、スポーツ教育学。広島大学大学院教育学研究科博士後期課程修了(博士(教育学))。JICA海外協力隊(体育隊員)としてカンボジア王国の初等教員養成校での活動などを経て現職。主にカンボジア王国を中心とした、体育科教育やスポーツに関するフィールドワークを継続的に実施。【主な著書】「日本における『開発と平和のためのスポーツ』に関する取り組み:現場・政策・研究の動向に着目して(共著)」「スポーツと国際協力:スポーツに秘められた豊かな可能性(共著)」など。
過去の記事
独立行政法人 日本スポーツ振興センター
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