2024年2月13日 17:00
2024年2月16日 10:33
VOL1.【スポーツと開発概論】体育・スポーツ担当大臣等国際会議(MINEPS)とフィット・フォー・ライフ(Fit for Life)とは?
コミュニティ限定
はじめに
スポーツと開発概論の第1回目は、国際連合教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization: UNESCO)主催の「体育・スポーツ担当大臣等国際会議(International Conference of Ministers and Senior Officials Responsible for Physical Education and Sport: MINEPS)」と「フィット・フォー・ライフ(Fit for Life)」についてご紹介いたします。
MINEPSは、「スポーツと開発(Sport and Development)」注)分野の土台ともいえる「体育・スポーツ国際憲章」(1978)の策定に対して大きな役割を果たしてきました。「体育・スポーツ国際憲章」は、1991年に一部改訂を経て、2015年に「体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章」として改訂されました。第11条として「体育・身体活動・スポーツは、開発、平和、紛争後及び災害後の目標の実現において重要な役割を果たすことができる」が新たに加わり、「スポーツと開発」が広く周知されることとなりました。
MINEPSでは、UNESCO加盟国・準加盟地域のスポーツ担当大臣、実務者、研究者等が集まり、国際社会における体育・スポーツの政策や実践に関する議論が行われています。これまで、MINEPSは計7回開催されてきました。
2023年に開催されたMINEPS Ⅶでは、「Fit for Life」に関する取り組みを中心とした議論がなされました。
注)「JICA『スポーツと開発』事業取り組み方針」(2018)では、スポーツそのものの普及や支援を行う「スポーツの開発」、スポーツを通じて開発途上国が抱える社会課題の解決を目指す「スポーツを通じた開発」、この両者を含んだ概念が「スポーツと開発」とされています。
MINEPSと「スポーツと開発」の背景
MINEPSではこれまで「スポーツと開発」に関わる検討がなされてきました。
MINEPS I:体育・スポーツの開発が不可欠であるという認識に基づいた政策等の検討がなされました。
MINEPS II:体育・スポーツの開発のみならず、ドーピング問題といった体育・スポーツの副次的な課題を中心に議論がなされました。
MINEPS III:「プンタ・デル・エステ宣言」が採択され、開発・平和・相互理解・国際協力のツールとして体育・スポーツの役割について焦点が当てられることとなりました。
MINEPS IV:主にスポーツに関する倫理、体育・スポーツのさらなる発展、女性とスポーツに関する議論がなされ、スポーツマン精神に則った健全な社会を築くために「アテネ宣言」が採択されました。
MINEPS V:3つのポリシーが掲げられた「ベルリン宣言」が採択され、「体育・スポーツ・国際憲章」が大幅に改訂されることとなりました。
MINEPSVI:「持続可能な開発と平和に対するスポーツによる貢献の最大化」といった3つのポリシーに対し20の政策項目と5つの行動から構成された「カザン行動計画」が承認されました。
MINEPS VII:健康・教育・平等といった社会課題の解決に体育・スポーツを活用する「Fit for Life」を国際社会や国レベルで取り組む検討がなされました。
Fit for Lifeの活動目的
健康・教育・平等といった社会課題の解決に体育・スポーツを活用する「Fit for Life」 は、以下5つの目標を掲げています。
1.運動不足や生活習慣病の改善に向けた草の根スポーツへの参加促進と質の高い体育の実現
2.健康・教育・平等といった社会課題の解決に向けた質の高い包括的なスポーツ政策の策定サポート
3.スポーツを通じた若者のエンパワーメント、平等の促進、社会情緒的レジリエンスの育成
4.質の高い子ども中心のスポーツ教育カリキュラムを提供するための教師・指導者へのサポート
5.COVID-19による若者に対する影響の改善に向け、スポーツへの投資を活性化させるためのエビデンスの蓄積
COVID-19による若者と体育・スポーツへの影響
Fit for Lifeの目標5.では、COVID-19による若者への影響について触れられていますが、どのような影響があったのでしょうか。
・COVID-19以降、身体活動は41%減少しているとされ、社会的に恵まれない人々にも大きな影響を与えているとされています。
・COVID-19以前80%の若者が座位状態の生活を送っていたとされ、COVID-19の影響による若者の身体活動の減少は懸念すべき事項とされています。
・COVID-19の影響によるロックダウンや運動不足から、精神的な疾患(例えばうつ病)が急増し、若者の場合メンタルヘルスに関わる疾患が200%増加したことが報告されています。
・COVID-19によって190か国以上16億人もの児童・生徒・学生が影響を受け、1,100万人の女児が教育からドロップアウトしてしまう可能性があるとされています。
・COVID-19によって2億500万人が失業に追い込まれ、若者が目的を見失っているとされています。
COVID-19による影響を踏まえ、今後国際レベルおよび国レベルで「Fit for Life」を推進していくことが求められています。
参考文献
JICA: スポーツと開発.「スポーツと開発」事業取り組み方針.
https://www.jica.go.jp/Resource/activities/issues/sports/ku57pq00002lc8qo-att/policies_sports.pdf
文部科学省:体育・身体活動・スポーツに関する国際憲章.
https://www.mext.go.jp/unesco/009/1386494.htm
笹川スポーツ財団.第7回体育・スポーツ担当大臣等国際会議(MINEPS Ⅶ)が開催されました.
https://www.ssf.or.jp/news/fy2023/013749.html
UNESCO: International Conference of Ministers and Senior Officials Responsible for Physical Education and Sport (MINEPS).
https://en.unesco.org/themes/sport-and-anti-doping/mineps#conferences
UNESCO: Fit for Life.
執筆者
山平芳美(やまひら よしみ)広島市立大学 国際学部 講師
広島市立大学国際学部講師。専門分野はスポーツ国際開発学、体育科教育学。広島大学大学院教育学研究科博士後期課程修了(博士(教育学))。JICA海外協力隊(体育隊員)としてカンボジア王国の初等教員養成校での活動などを経て現職。主にカンボジア王国を中心とした、体育科教育やスポーツに関するフィールドワークを継続的に実施。【主な著書】「日本における『開発と平和のためのスポーツ』に関する取り組み:現場・政策・研究の動向に着目して(共著)」「スポーツと国際協力:スポーツに秘められた豊かな可能性(共著)」など。
独立行政法人 日本スポーツ振興センター