2024年7月4日 12:00
2024年8月13日 4:15
【インタビュー・筑波大学 TIAS(前編)】国際的なスポーツ人材育成プログラムによるスポーツを通じた社会貢献とは?
全体公開
筑波大学では、2015年より『つくば国際スポーツアカデミー(Tsukuba International Academy for Sport Studies:通称TIAS)』を設立しました。スポーツ・フォー・トゥモローの一環として、『スポーツ・アカデミー形成支援事業』の1つとして設立が進められたTIASでは、2015年から2019年はスポーツ庁の委託事業として各国の政府機関や競技連盟からの学びの意欲のある学生が集まり、まさに世界のスポーツ人材が集まる場となりました。2020年からは、『TIAS 2.0』として筑波大学大学院学位プログラムにて実施されているTIASでは、オリンピック・パラリンピックムーブメントやスポーツマネジメントにおける幅広い基礎的教養、武道やスポーツ科学にわたる広い知識・能力が養われます。
令和5年度には、ポストスポーツ・フォー・トゥモロー推進事業(PSFT)の再委託事業としてもさまざまな施策を行ったTIASの歴史・想いについて、筑波大学・深澤浩洋教授(以下、深澤)と、ラクワール・ランディープ先生(以下、ランディープ)にお話を伺いました。
「世界のスポーツをリードする人材育成」TIAS設立の背景
ーーつくば国際スポーツアカデミー・TIAS設立の背景について教えてください。
深澤)一番の大きなきっかけは、TOKYO2020の開催が決定したことです。スポーツ庁などを中心に、さまざまなプログラムが動き出す中で、筑波大学でもオリンピズムに基づいた国際人材の受け入れ・育成を行う動きが2014年からスタートしました。短期のプログラムののちに、TIASとして本格的に1期生を受け入れたのが2015年です。大学院の体育学専攻の中の1つのコースとして、1年半のプログラムを設置し、「世界のスポーツをリードできるような人材を育成する」という目的で立ち上がりました。
※1~5期(2015年度~2019年度)の応募状況。定員20名に対して3倍以上の応募があるなどオリンピックに向けて国際的にも注目されていたことがよくわかる。(資料提供:筑波大学 TIAS(つくば国際スポーツアカデミー))
ーーアフリカ・南米・アジア・オセアニアなど、様々な地域から学生が来ると伺っています。TIASのプログラムに参加した学生は、どのような目的で来ることが多かったのでしょうか?
深澤)当時の学生には、その国の政府機関、日本でいうスポーツ庁のような機関から派遣されるメンバーも多くいました。オリンピックが開催される日本で学び、自国に戻ってさらにスポーツを発展させたいという使命を持っているような方々です。
ランディープ)サモア・フィジー・インドなど、政府で働く方も多く参加していました。平均年齢は20代後半から30歳くらいで、少し年齢が高めの層もいました。総じて、経験値の高いメンバーが集まっていたという印象です。
ーー日本に対して、海外からそうした期待や魅力を感じていただけているのは嬉しいことですね。
ランディープ)修了後、オリンピックの組織委員会で活躍するメンバーもいました。もともと自国の政府や競技連盟などで働いていたバックボーンもありながら、TIASで学問的に学ぶことも加わり、人材輩出という意味でも成果は出せていたのではないかと思います。
ランディープ先生(左)と深澤先生(右)
このネットワーク自体が『レガシー』
ーーこのTIASで、さまざまな背景のある国際色豊かなメンバーと学ぶこと自体がとても価値のあることのように感じます。
深澤)まさにそうですね。ネットワークという意味でも広がりがあり、そのコミュニティを提供できていること自体がTIASの大きな価値なのかもしれません。
ランディープ)こうしたネットワークは、現在のTIASにも関わってきています。修了生が自国に戻って活躍すると、TIASの後輩学生たちがその国で短期インターンとして活動できるチャンスにもなります。学生が得られる経験の幅の広がりにもつながっています。
ーーこうした積み重ねで、より素晴らしい経験ができるプログラムに進化しているのですね。
実際に見ることの意義を感じながら
ーーTOKYO2020は、『復興オリンピック』と題され、東日本大震災の復興という意味でも大きな役割を持っていました。ポストスポーツ・フォー・トゥモロー推進事業として今年度「持続可能な開発と平和に対するスポーツによる貢献」事業を筑波大学は実施しており、その中で、『スタディーツアー』として東北地方との関わりを強く持っています。このスタディーツアーは、どのような位置づけをもって始められたのでしょうか?
ランディープ)TIASは、“オリンピック教育”という面も強く持ったプログラムです。開催地である日本という国自体のことを海外から来た学生にも学んでほしいと考えており、東日本大震災からの復興というテーマは外すことができませんでした。『スタディーツアー』では初年度は岩手県陸前高田市、その後は福島県飯舘村を訪れるなど、座学で学ぶだけでなく自分の目で現実を見てほしいという想いを持って実施していました。
福島県飯舘村でのスタディツアーの様子
ーー日本という国、そして東日本大震災という未曽有の災害のことを知るために、実際に現地の様子を見るということの価値は計り知れないですね。
ランディープ)私自身は震災後の福島県で働いていたこともあり、状況がよくわかっています。ですが、海外からきた学生はとくに実際に自分の目で見ると大きな刺激になりますよね。1年に1回、1泊2日の行程で行くのですが、そのレポートを見ると、学生自身が聞いてTIAS 2.0いで得た情報と実際に目で見てわかることとの差を感じ、気持ちが溢れていることがよくわかります。
ーーオリンピックにおける“競技だけ”ではない部分を実感します。非常に意義のあることですよね。
深澤)「オリンピック・ムーブメント」として、ただ大会を開催するだけでなく、そこに至るまでの過程、その先を見据えて取り組むことが重要です。この復興に関しても、内容として消してはいけないですし、継続していくことが大事になります。『TIAS 2.0』として2020年から再スタートを切った際も、このプログラムの意義・意味は存在させ続けなければならないと感じていました。
ーーコロナ禍でスタディツアーが実施できない状況があった中でも、2023年に日帰りで、2024年には2日間で再スタートを切ったということに、この復興支援への想いの強さが伝わってきます。
ランディープ)「どうしてオリンピックが東京で開催されることになったのか?」という点は、座学の授業でも行っていますし、理解している学生も多くいます。ただ、特にこうした復興支援の話は、実際に見て、現地の人の話を聞かないと伝わらない部分も大きいです。
ーーこうした面でも、国際交流やスポーツの力を海外からの学生たちが感じてくれることは、今後の学生たちの活動にとってもおおいに意義のあることなのではないでしょうか。
ランディープ)インドから来た学生は、TIASのプログラムでマインドセットが変わったとも言っていました。筑波での経験、東京での経験、陸前高田や飯舘村での経験も含めて、よいものを提供できているのではないかと感じています。
ーーオリンピック・パラリンピックが与える影響が、単なるスポーツ大会としてのものではないということですね。
現地コーディネーター伊藤氏の声
ーー[後編]では、「福島県飯舘村でのスポーツを通した交流」事業に関して詳しく聞いていきます。
後編はこちら:【インタビュー・筑波大学 TIAS(後編)】オリパラ人材育成の重要なピース|福島県飯舘村でのスポーツを通した交流・2023年スタディーツアー報告
編集後記
スポーツ・フォー・トゥモロー(以下、SFT)は、開発途上国をはじめとする世界のあらゆる世代の人々にスポーツの価値やオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを広げることを目指した取り組みとして2014年から2021年までの8年間さまざまな事業に取り組んできました。
その一環として、「スポーツ・アカデミー形成支援事業」が立ち上がり、対象となる3校のうちの1つのプログラムとして立ち上がったのが筑波大学のTIASです。国際的に草の根で活動する団体や、政府レベルでの取り組みなど、SFTにはさまざまな取り組みがある中で、こうしたアカデミックな視点を持った取り組みは、多くの国際人材を日本に受け入れる上で非常に貴重なものでした。
また、2020年には、『TIAS2.0』として学内事業として採択された以降、東日本大震災関連のスタディーツアーなど、座学で学ぶだけでなく、“日本の現状”を現地で知り、学びに活かす取り組みを実施しており、活動が継続・発展されていることを本当にうれしく思っています。新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の事態を経て、形を変えてもなお“想い”を継続するTIASの深澤先生、ランディープ先生以下、関わる皆様に敬意を表したいと思います。
(取材・執筆:栁井隆志)
独立行政法人 日本スポーツ振興センター
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