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2024年7月5日 12:00

【インタビュー・筑波大学 TIAS(後編)】オリパラ人材育成の重要なピース|福島県飯舘村でのスポーツを通した交流・2023年スタディーツアー報告

全体公開

筑波大学で行われる『つくば国際スポーツアカデミー(Tsukuba International Academy for Sport Studies:通称TIAS)』。さまざまな国から集まり、「日本でスポーツを学ぼう」とする学生たちにとって、TOKYO2020を経たこの国の環境が貴重な経験の場になっています。

TIASのプログラムの中でも、象徴的なものの1つが東北地方への『スタディツアー』。2015年以降、復興オリンピックを掲げる中での東日本大震災の現状をその目で見るため、学生たちは現地に足を運んできました。

このスタディーツアーで、2015年には岩手県陸前高田市、その後は福島県飯舘村を訪れていましたが、2020年以降は新型コロナウイルスの影響により中断してしまいます。ですが、その想いは継続し、2022年には日帰りで、そして2023年12月には元通り1泊2日でのツアーとして再開しました。

今回は、ポストスポーツ・フォー・トゥモロー推進事業再委託事業としても採択された2023年度の取り組みへの想いについて、前編に引き続き筑波大学・深澤浩洋教授(以下、深澤)と、ラクワール・ランディープ先生(以下、ランディープ)にお話を伺います。


前編はこちら:【インタビュー・筑波大学 TIAS(前編)】国際的なスポーツ人材育成プログラムによるスポーツを通じた社会貢献とは?

地域への国際交流の場の提供


ーー今回の福島県飯館村へのスタディーツアーの行程は、どのような意図をもって組まれていたのでしょうか?

深澤)毎回そうですが、まずは「飯舘村の現状を把握すること」を大事にしています。1日目は放射線量の測定器を持ち、実際に目で見ながらその状況を実感してもらいました。とくに今回は、2日目に地元の老人会の皆さんとのスポーツを通した交流プログラムを実施できたことがよかったと感じています。飯舘村の方々にとって、留学生との交流は英語でのコミュニケーションなど不安な点もあったかと思いますが、最後には「また来てね」と言うくらい仲良くなっていて嬉しかったですね。

ーー飯舘村の方々との交流の際に行ったプログラムは、実際にTIASの学生が考えたのですか?

深澤)そうです。学生たちにはそれだけでなく、TIASの活動の中で子どもたち向けにオリンピック教育を通じて交流するプログラムを考えてもらっています。文京区でのイベントに参加したり、筑波大学を会場にしての小学生との交流イベントでは、体を動かすプログラムとオリンピック教育に関するクイズのオリエンテーリングを実施してます。イベントを通して子どもたちに国際交流に踏み出すきっかけづくりなどを与える活動も、このTIASでは重要な取り組みの1つです。


地域住民にルールを教えるTIASの学生たち


ーーTIASでインプットするだけでなく、地域の方々への影響力という点も重要視されているのには私も驚きました。

深澤)学生たちの学びにもなりますし、身体を動かすスポーツというのは、言葉だけのやり取りよりも簡単にコミュニケーションが取れるということが、実際にイベントを実施しているととてもよくわかります。留学生たちと日本の子どもたちの交流という意味でも、スポーツが介在することは非常に価値がありますね。

また、TIASの学生たちも、何かしらのスポーツ経験者であることが多いです。スポーツを通しての交流がそれ以前にあった先入観をなくし、「みんな同じ人間なんだ」と感じられる様子を見ると、素晴らしいことだなと感じさせられます。

スポーツを通した相互理解を

ーー飯舘村にお話を戻します。今回、2日目のスポーツを通した交流では、どのようなプログラムが行われたのでしょうか?

ランディープ)アイスブレイクを経て、ボールを使いハンドパスをしながら体を動かしたり、ボッチャで交流したりしました。老人会の皆さんは80歳以上の方もいて、どの程度動けるか心配な部分もありましたが、思った以上に動ける方が多かったことが印象的です。

深澤)ランディープ先生が感じたような、「この人はどのくらい動けるんだろう」というのも1つのお互いの理解につながるポイントですよね。今回のプログラムでは、英語や日本語、ボディーランゲージを使った会話以上のものが生まれたと思います。

ランディーブ)飯舘村は、放射線のことなど、ネガティブな情報もいまだに多いです。ですが、学生たちは自分の目で情報を見て、それをもとに地元の人たちとディスカッションして、なにが正しい情報なのかを自分で判断していました。これこそがスタディツアーで得られる大きな力だと思っています。

スポーツを通して交流する学生と地域住民



ーー学生から出た中で、印象的な質問はありますか?

ランディープ)「生活していて怖くないか?」という質問がありました。食べ物に関してもそうですし、外出の基準なども気になるところだったようです。そのほかでも、「生活していくためにどうしていけばいいか?」という視点での質問が多かったように感じます。

今回のスタディーツアーを経て、学生たちは「今度は自費でもまた行こう!」と計画しています。こうした学生の意欲は素晴らしいなと改めて感じました。今回のような交流会から発展させて、なにか大きなイベントのようなことができればいいですね。

                  参加学生の声

ーー次への意欲も湧いてくることは素晴らしいですね!TIASに参加する学生たちの特徴も、オリンピック開催前と後とで変わっているのでしょうか?

深澤)2019年以前のTIASには、オリンピック関連での学費の補助が出ている学生が少なくありませんでした。その期間が終了し、2020年からTIAS2.0としてスタートを切ったあとは、どうしても私費の負担は以前に比べて増えていることも多いのですが、積極的に日本語を使おうとする学生や、卒業後に日本で就職先を探す学生が増えてきたような印象があります。これまでの「学びを持ち帰る」ことを考えた学生だけではなく、純粋に「日本でスポーツを学びたい」という学生が増えているのではないかと思います。

ランディープ)先日、TIASに所属する日本人学生の長野県の実家に留学生メンバーが泊まりにいったことがありました。一緒に勉強する日本人の学生側も、この交流をきっかけによい変化が生まれてきていると思います。その場でまた改めて、飯舘村で何かやりたい!という想いが学生の中で醸成されたようですし、こうした交流の強さによって、スタディツアーのその次に繋がる熱意が生まれているのは素晴らしいことです。


学生と地域住民の集合写真


ーー私費の負担が増えても「学びたい!経験したい!」と思えることは、簡単なようでなかなか難しいハードルですよね。それを超えた学生たちだからこそ、また違ったコミュニティの形が生まれているのかもしれませんね。

深澤)日本国内でも、修了生のネットワークが広がったことでインターン受け入れ先なども増えてきています。そうした協力者が国内にも海外にもいて、さまざまな場所でスポーツシーンをリードする人材がいる状況は、学生のためになると思っています。

ランディープ)それだけでなく、日本のスポーツ関係のところにTIASを修了したあと、あるいはインターンとして学生が行くことで、受け入れる側の体制が整うことにもなります。英語でのコミュニケーションへの対応や、文化の違いなど難しいことはたくさんあると思いますが、TIASの取り組みから「受け入れてみようかな」と思ってくれる企業や機関が増えるのは非常に大きな意義があります。

ーーTIAS、そしてTIAS2.0で積み重ねてきたものが、形になりつつあるのかなと感じます。今後はどのようなところを目指していくのでしょうか?

深澤)もちろん、復興支援のスタディツアーも含めて、いままで取り組んできたことを発展・継続させていくことを大事に考えていますし、アカデミックな部分も伸ばしていきたいと考えています。現在は修士(マスター)までしかありませんが、ドクター(博士)まで取得できるようにしたいですね。博士号を持つ学生は、海外でもいままで以上に話に耳を傾けてもらうことが増えるはずです。

私は、このTIASをかつて江戸時代の『出島』だと考えています。日本の体育やスポーツのことを海外から知りたいと思ったときに、たどり着く場所。学内にいる100名を超える優秀な教員たちにも、海外とのつながりを生み出す場という点から、もっとTIASのことを知っていただき、筑波大学の持つポテンシャルで世界に影響力を与えていきたいですね。

ーーありがとうございました!

編集後記

『TIAS』は、2019年までの5年間の委託事業を終えたのちも、『TIAS2.0』としてその活動を継続してきました。想いを絶やさずに取り組んできたこの取り組みに対して、委託事業としてご一緒できたことは非常に嬉しいことです。


新型コロナウイルス感染拡大、TOKYO2020の開催を経て、スポーツを取り巻く環境も変わりましたし、オリンピック・パラリンピックに関しても“レガシーとして継承する”段階に変わりました。そうした中で、TIASに参加を希望する学生の特徴も変化し、コミュニティとしての性格も少しずつ変わっていくのは必然なことかもしれませんが、その国際交流に対する根底の考えは変わらず、さらによりよい方向に向かっていることが、インタビューを通して伝わってきます。


多くのスポーツ国際交流・協力を実践する会員の方が知り、つながり、学び、一緒に取り組むことが、社会の課題解決におけるよりよい成果を生み出します。活動の事実だけでなく、こうした“想い”を知る機会があることも、今後のこのコンソーシアムの発展にとって重要です。引き続き活動報告を発信していきますので、皆さまお読みいただけると幸いです。


(取材・執筆:栁井隆志)

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