
2021年10月27日 19:00
【Tailors #3 後編】まず最初にやることは、「エゴ」を共有する場所を持つこと
「Tailors」では、地域のコミュニティで継続的、持続的に社会課題を解決する仕立て人の皆さんにお話を伺っていきます!
ゲストは前回に引き続き、『ローカルシフトアカデミー』オーナーの稲田 佑太朗(いなだ ゆうたろう)さんです!ローカルシフトアカデミーとは、東京など都市部在住で地域に興味関心がある人や、UIJターンを考えている人、新しい働き方を模索している人を対象とした、起業家精神の醸成を目的としたコミュニティです。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
みずの:さて後半戦となりますが、宮崎県新富町で活動をされていらっしゃる「ローカルシフトアカデミー」の稲田 佑太朗さんに、引き続きお話を伺っていきたいと思います。よろしくお願いします!
稲田:よろしくお願いします!
臨床検査技師から人材育成の道へ進んだきっかけ
みずの:稲田さんには前編の記事でも色々なお話をお伺いしました。特に、コミュニティ参加者の皆さんに寄り添う姿勢であったり、見守る振る舞いであったり。そういったことは凄く実践しやすいポイントであるし、とても効果も出やすいところなのかなと思いながらお伺いしておりました。引き続きよろしくお願いします!
稲田さんのご経歴ですが、元々宮崎県が出身でいらっしゃいます。その後、医療現場の臨床検査技師をされていらっしゃるのですが、今となっては人材育成というところまで手掛けられています。この辺りの転機について教えていただきたいです!
稲田:臨床検査技師を簡単に説明すると、血液や尿の成分を検査する人ですね。僕がちょっと特殊な臨床検査技師でして、「病理診断科」というがん細胞等を診断する先生のもとで、標本を作る仕事をしていました。
僕の転機は、病理検査で亡くなった方を解剖する「病理解剖」をしていた時です。僕は病院でお亡くなりになった方のお腹を開けて臓器を取り出す、頭を開けて脳みそを取り出すみたいな、亡くなった後のご遺体を解剖するという仕事をしていました。
35歳くらいの男性のご遺体を解剖したことがあり、当時28歳の自分の人生を照らし合わせて、「あと7年後に亡くなるとしたらこのまま臨床検査技師を続けるのかな」と思いました。その問いに対しては「YES」と答えられませんでした。
自分がこれまでやってきたことは無駄になるけれども、中学校の頃は人に勉強を教えるのが好きだったこともあり、人に伝える仕事がしたいと思って、30歳で人材育成ないし教育の方に意を決してキャリアチェンジをしました。
みずの:周りに止められなかったんですか?
稲田:公務員の県庁職員だったので、親にはアホかと言われました。友達にも止められました。そりゃそうだよなと(笑)だけど、県庁時代に色々なビジネス書を読んでいて、逆に公務員でいる方が不安だなと思ったんですよね。
もし定年が70歳まで延びたとして残り40年間のうちは、僕は大きな船に乗ることよりも、サーフボード一枚で波に乗れる技術を付けることの方がよっぽど安定だな思ったので辞められました。
もちろん親には事後報告して、結果的には「あんたのやりたいことはそれだったのね」という風になりました。
みずの:勇気のある決断という風にも感じますし、一方で、それを決断したきっかけが凄くスペシャルなシーンだったわけでもないことも印象に残りましたね。検査技師というと、月9ドラマ「朝顔」ではまさしくそういうお仕事をする登場人物がいましたよね。
ちなみに、Uターンのタイミングは、大学卒業後だったんですか?
稲田:そうですね。大学卒業後に宮崎県に戻ってきて、そのまま宮崎県で就職しました。
キャリアチェンジを決断するきっかけとしてはもう一つありまして、僕の人生のメンターになっている女性経営者の方に言われた一言が指針になっています。僕は「ゆうちゃん」と呼ばれていたのですが、「ゆうちゃん、これから人生に凄く迷うし、これからいろんなことを選択していかなきゃいけないと思う。だけど、あなたが50歳になった時にどんな顔でいたいのかということだけを考えて、これからの選択をしなさい」と言われたんです。
「自分はイヤイヤ仕事をするよりも、大変だけど楽しい仕事をしていきたいな」という想いを持つようになり、その女性の方が僕の背中を押してくれましたね。
みずの:まさにメンターというか、背中を押された感じですね。素晴らしいな。
退職のタイミングとしては、ある程度お仕事が形になってから退職されたんでしょうか?
稲田:いえ、漠然としていましたね(笑)ビジネス書を読んでいたので「自分は営業できる、マーケティングできる」と勝手に思っていました。社会をプールに例えると、泳ぎ方は本で覚えたけれども、周りの人には僕が溺れているようにしか見えないという状況でした(笑)
そんな中、溺れているのを笑う人もいれば、溺れているから「面白いな、こいつ」と思って、手を引いてくれる人もいるんですよ。「捨てる神あれば、拾う神あり」じゃないですけれども、何かがむしゃらに自分でやってみたら、誰かが面白いと思って手を引っ張ってくれたというのはありますね。
みずの:面白いですね〜!
退職後、最初のアクションと学び
みずの:退職されて、 最初に取り掛かったことはどんなことでしたか?
稲田:僕が教える勉強法で生徒の成績が上がるのかを確かめるために、最初の2ヶ月間は学習塾にいました。これまで英語で50点も取れなかった生徒が、僕が2時間教えた後の中間テストでは78点を取ったんですよ。ただ、次の期末テストで同じくらいの点数を取れるかというと、そうはならないんじゃないかなと思っていました。今回限りの1回の成功でしかないので、次は怠けてしまってまた50点付近まで下がるかなと。
でも、その生徒が教えてくれたのが「1回の成功体験で自分自身の常識が変わる」ということです。期末テストの前に僕の所に来て、「僕は昔の自分に戻りたくないから、もう1回勉強を教えてください」と言われて、期末テスト前に勉強を教えたら80点を超えたんですよね。
それだけ「人の成功体験って自分自身の殻を破れる機会があるんだ」ということは、中学生の彼が教えてくれました。2ヶ月間の中で大きな経験ができましたね。
みずの:面白い!そういう向き合い方は、稲田さんの姿勢として現状のコミュニティの活性化に繋がっていると思いますし、今も存分に発揮されていらっしゃると思います。
発酵させるように、コミュニティの場の温度管理をする
みずの:内発的動機付け、モチベートするみたいなことは前職でも実施されていましたか?
稲田:自分としては、どこかで体系的に学んだということは無かったです。感覚的に「多分この人ここにしこりがあるな」と感じるのは得意だったので、似たようなことはやっていました。加えて、社会人になって「CTI」というコーチングのスクールで勉強させていただいた時に、「やっぱり人の中に答えがある」というのは本当なんだということは学問として勉強させていただきました。
みずの:そういう背景があったんですね!コーチングのスキルをダイレクトに発揮する職業ではなかったけれども、退職後の流れの中でまさにそれをぶつけていけるような現場に巡り合えたんですね!
稲田:各々が答えを持っているので時間はかかるんですけれども、色々な人の話を聞いても「やっぱり発酵と同じだな」という風に思いますね。発酵と腐敗は同じ現象ですが、発酵させるには、いかに場をかき混ぜて、菌が死なない状態にしてあげながら、ある程度温度を活性化する状態に保ち続けることが大事です。タイミングは分からないけれども、ある衝撃で「トンッ」と形が出ていく。まさにキノコ的なものだなとは思います。
ですので、コミュニティを考えると、内発的動機を付けるというよりは、内発的動機を自分で形作るまでの期間をしっかりとクオリティコントロールする、温度管理するというところはありますかね。
みずの:なるほどな。前回のお話でも伺いましたけど、1人1人との関係をちゃんと紡いでいくということも、その考えがベースにありますよね。
参加者の意気込みのムラを解消する方法
みずの:コミュニティに参加する方の期待値や、どんな意気込みで参加しているかは異なるので、最初は期待値にムラが出やすいと思います。どのコミュニティでもそうだと思うんですけれども、そういったことを解消するために、稲田さんはどのようなことを工夫されていますか?
「とりあえず一回飲みに行こうぜ」みたいなアプローチは大変しにくくなっているところかと思いますが、いかがでしょうか?
稲田:もちろん、オリエンテーションではその会の目的を話しますが、加えて「自分のエゴを教えてください」というコーナーを必ず持つようにしています。コミュニティに参加する場合は、何かしら動機があるじゃないですか。でもその動機って、人と話す時には凄く綺麗な言葉で伝えがちなんですよ。
例えば、「社会のため、地域のため」のような言葉ですね。もちろんその言葉も素晴らしいし、大事だと思うんですが、「あなたの根源的なものを教えて欲しい」ということは、場を担保した上で話してもらいますかね。
ちょっと下品な言い方になるかもしれないですが、例えば「お金を稼ぎたい、女性にモテたい、良い服着たい」とか色々あるじゃないですか。人間らしい欲求を共有できていない状態で、その人に「社会的に良いからやりなよ」と言われても「なんかそこじゃないよなぁ」と思ってしまいます。
ちゃんとお互いのエゴを共有できる場を持つのは、コミュニティを作る上で一番最初にやらないといけないと思います。 上辺だけの綺麗な言霊だけで終わらせてしまうのは、深いコミュニティにはなりづらいんじゃないかなと思っています。多分飲み会は、自分の本音を語れる場だったんですよね。でもオンラインとなると、そういうこともできないし…
であれば、そういう場をこちらが提供すれば良いと思います。例えば、僕自身も「僕は女性にモテたくて仕事しています」と普通に言いますし、こういうことをしないとやっぱり自分でエゴは出せないですからね。エゴのコントロールは結構意識しておこなっています。
みずの:よく「安心・安全」と言いますけれど、安心・安全の場を整えるための工夫として、まずは自分から発言したり、さらけ出したりすることが大事というのは確実にありますよね。
初対面での緊張感を和らげる
みずの:初対面や初見の人達が多い中で、いきなり本音を話すということはなかなか難しいのかなと思うんですけれど、そこまで苦労は無かったですか?
稲田:僕がファシリテートする上で気をつけている事がありまして、それは「まず最初にちょっとスベる」ということです(笑)これは大事にしていますね。
みずの:これは結構大事ですよ、皆さん!なるほどね!
稲田:ちょっとスベる、かつ、皆が突っ込めるくらいのボケをすると、「この人イジっても良いんだ」みたいな空気感が生まれます。その空気感を作った上で、本音を話すようにしていますね。僕がキチッとスーツを着ているとその空気感は出しづらいけれど、僕がスベると場の空気が和むんです。
ただ、この時はチェックリストのように「エゴを話しましょう」ではなく、皆が突っ込める誰でも知っているようなボケを自分で1回言うようにしていますね。
みずの:「笑わせないとダメです」という話ではないところが良いですね。
稲田:とにかくスベれば良いんです(笑)
みずの:スベりにいこうとしてスベるというよりは、果敢に挑むという感じですかね?
稲田:「これくらいだとスベるかな、ちょっと場がシラケるかな」というところを恐れずに、自分でスベって笑うと、「この場ってスベっても良いんだ」みたいな雰囲気になります(笑)
みずの:始めからスベりに行くんですね!
稲田:ファシリテーターって、1番最初の声のトーンが全て場の基準を作るじゃないですか。
例えば、カチッとした行政の方がファシリテーターだと、第一声を放った瞬間に第一声以下のことはなかなか言えなくなります。でも、基準をどこにセットするかによって場の言葉の種類が変わってくるので、僕はちょっとスベりに行くようにしていますね。
みずの:冒頭は凄く大事だし、そこではきちんと「空気を和らげておく」というところを大事にされていらっしゃるという話でしたね。これはめちゃめちゃ重要なのではないでしょうか!
ありがとうございます。凄く良いお話を聞けました!
「移住しないでください」の真意とは
みずの:少し雑談をした時に仰っていた「移住をしないでください」という言葉がとても印象に残っているので、この言葉の真意を教えてください。これはどういう経緯で発された言葉なんですか?
稲田:元々、ローカルシフトアカデミーは地域に移住することを裏目的とはしていました。ですが、「移住のための講座ですよ」と言われた瞬間に、参加者は逃げ道が無くなってしまいます。「移住しないの?え、言ったでしょ?」みたいなのはあまり好きではないんです。ですので、「移住しないでください。でも移住したら、僕はサポートしますよ」という風には言っています。
意思決定は、主催者側ではなく参加者側が持つものです。主催者側が「移住してください」と言った瞬間に、こちら側が移住したことの責任を負わざるを得ないと思うんですよ。もちろん責任を負う覚悟で言っているとは思うんですけれども、彼・彼女らの人生を僕がジャッジすることはできないですからね。「移住しないでください」と言うことによって、彼らがより良い人生を送ってくれたら良いなと思います。
ただ、この講座は交付金事業で成り立っているので、移住は目的としますけれども、「僕個人としては」という言葉を使って「移住しないでください」と伝えます。「僕個人としては」という言葉がないと団体の言葉として受け止められてしまいますが、この言葉があるだけで本心を伝えやすいですし、参加を検討している側も安心して参加してくださいますね。
みずの:ちなみに、稲田さんの第一印象を参加者に聞いたり、話したりしたことはあるんですか?
稲田:結構「話しやすい、場が和む」という言葉はいただきます。僕は、和みしか提供できないので(笑)
みずの:それは凄くよく分かります。始めで、全体のトーン(雰囲気)が決まってしまうことも分かりますね。
稲田:場の空気は、コンテンツで決まらないんですよね。本当に開始1分で、全ての基準が決まるという感覚ですね。
みずの:だんだんモデレートするのに緊張してきました(笑)
コミュニティの源泉が大事
みずの:本当に様々なお話をお伺いしていますが、「移住なら移住、地方活性なら地方活性」というように、様々な目的でコミュニティに取り込まれている方が増えてきています。
ただ、アプローチ方法は、スクール形式でも良いわけだし、コミュニティの形式をとっても良いし、あるいはオウンドメディアを作っていっても良いし。色々な手法やアプローチ方法はあると思うんですけれども、稲田さんはなぜコミュニティ形式で活動していこうと思われたんでしょうか ?
稲田:そうですね。「コミュニティは温泉のようなもの」だと思っていて、湧き出してくるものに皆が集まるじゃないですか。でも、湧き出しているものがないと誰も集まって来ないですよね。チームや組織で活動すると「目的」が大事になるのかなと思うのですが、コミュニティは「その源泉に皆が浸かりに来る」ぐらいの感覚なんです。
コミュニティって何が良いかと言うと、やっぱり「源泉次第」というところはあるじゃないですか。そういう意味では、コントロールしやすいんですよね。熱を持たないコミュニティは、やっぱり源泉が全然出ていないので、フレームだけ作って人が離れていくのは当然だと思っています。源泉がないところに皆行かないですからね。
みずの:凄く良い例えですね。ローカルシフトアカデミーの源泉は、どういう風に作られていったんですか?
稲田:皆がこのスクールでの3ヶ月を通して、本当の意味で豊かな人生を手に入れて欲しいと思っています。自分が何が好きで、何が嫌いで、自分がどういう生き方したら心地が良いかというところを、「ちゃんと言葉にしていきましょう」という風に伝えましたね。
みずの:「移住しなくても構いません、移住しないでください」まで言ってくれると、参加者は凄くリラックスできると思うんですよね。その言葉によって、参加者が本当にやりたいことに打ち込むのを促すことができると思います。
あとは、KPI を移住の数に置いていないことが良いですよね。「実際にそうなれば良いな」というのはもちろんあるし、最終的には何名が移住してくれたというところに繋がると思うんですけれども、移住を強いらないところが鍵かなと思いながら聞いておりました。すごく面白いですね。
稲田:KPI は主催者側の KPI なので、参加者側に当てはめる必要はないんですよね。僕が「移住しないでください」と言った背景に、ちゃんと KPI 的な達成ができれば良いと思っています。
KPI を達成するのは運営側で、参加者側は達成しなくて良いんです。参加者は、自分の人生を豊かにして、このスクールを卒業して良かったと思ってもらうことが KPI です。この認識は主催者と参加者で分けるべきだと思います。コミュニティで KPI を共有した時点で、コミュニティではなくてチームになると思います。
みずの:皆が温泉に入りたいなぁと思って、皆が集まってくるのが、コミュニティの良いイメージだなと思いました。ありがとうございます!
0回目のオンラインの活用について
みずの:オンラインで関係性を築いて、オフラインと両方ともあったのも良かったんじゃないですか?
稲田:そうですね。オンライン→オフラインあるあるですけれど、「この人身長高いんだ!」とかはやっぱりありますね(笑)既にオンラインで話しているので、オフラインの場になると話の進み方が半端ないんですよね。
事前に1回オンラインで会話をしておくと、「あー!あの時の!」みたいな感じで、オフラインの第1回目の講座で皆が名刺交換を始めるんですよ。0回目のオンライン活用は、コミュニティではかなり大事かもしれないですね
みずの:この辺りのお話は、コミュニティデザインの秘訣といっても良さそうですね。
次回ゲストのご紹介
みずの:さて色々な話をお伺いして参りましたが、この番組は次回のゲストをご紹介いただくという古き良きシステムなっております!どなたをご紹介いただけますか?
稲田:ローカルシフトアカデミーの受講生でもある、原田 稜くんです。
彼は「超帰省」というコミュニティで、帰省をアップデートしようという活動に取り組んでいます。また、彼は本業で Jリーグの「シャレン!」というコミュニティも仕事にしているんです。受講生でこういう方に出会えることはまさにコミュニティの面白さだなと思うし、原田くんの話も聞くのが楽しみだなと思っています。
みずの:次回「超帰省」のコミュニティオーナーの原田 稜さんにまたお話を伺っていきたいと思います。
稲田さんのお話は、目的が違うコミュニティオーナーやコミュニティマネージャーにも役に立つお話が沢山あったと思っております。今日は沢山お話しいただき、ありがとうございます。稲田さんどうでしたか?
稲田:そうですね。あまりインタビューされることがないのですが、今回は言語化できて凄く良い時間でした。また、僕の些細な行動が「そういうことで良いんだ!」という、1mmでも動けるようなものが提供できればと思っております。ありがとうございました!
みずの:稲田さんはnoteも書かれていますので、色々知見が書かれた記事も併せてご覧ください。
ということで、今日は宮崎県新富町で活動されていらっしゃる「ローカルシフトアカデミー」の稲田 佑太朗さんにお話を伺いました。今日はありがとうございました!
稲田:ありがとうございました!
渡邉 愛
株式会社テイラーワークス
まだコメントがありません。コメントしてみましょう