
2026年3月23日 11:38
共創マガジンvol.5 ~どこでも農業ができる小型装置を開発。 空きスペースで野菜の苗づくりに挑戦。 スパイスキューブ株式会社 × エア・ウォーター北海道株式会社~
全体公開
地域の課題や可能性に向き合い、企業や自治体、大学・研究機関が連携して新しい価値を生み出す——そんなオープンイノベーションの実例(共創事例)をシリーズでご紹介します!
どこでも農業ができる小型装置を開発。
空きスペースで野菜の苗づくりに挑戦。
スパイスキューブ株式会社 × エア・ウォーター北海道株式会社
空きスペースで野菜を生産できる小型装置を開発し、室内農業を提案しているスパイスキューブ株式会社(大阪市)。
「Local Innovation Challenge HOKKAIDO 2025」に採択され、エア・ウォーター北海道株式会社の協力で実証実験が行われています。
実際に装置を稼働して、どのような課題が見えてきたのでしょうか。
スパイスキューブ株式会社の代表取締役・須貝 翼さんと、エア・ウォーター北海道株式会社の事業企画部ファシリテーションマネージャー・棟方 佑介さんが語り合いました。
オフィスの一角で農業に挑戦
—まず「Local Innovation Challenge HOKKAIDO 2025」に応募して実証に至るまでのいきさつを教えていただけますか。
須貝さん:2023年に大阪の商工会議所と札幌のオープンイノベーション施設が連携して開催したイベントに参加したんです。その後、Local Innovation Challenge HOKKAIDOの案内をいただいて応募しました。理由は二つあって、会社としては農業をとりまく社会課題に貢献できる手段があることを知ってもらいたい、ということ。もうひとつ、個人としては14年前に新婚旅行で北海道に来て、楽しい4日間を過ごさせてもらったので、恩返しがしたいという想いもありました。
棟方さん:私はLocal Innovation Challenge HOKKAIDOの事務局を担うデロイトトーマツさんから「何か共創できる案件はありますか」とご相談をいただいたのがきっかけです。屋内で可能な農業なら実証のフィールドを提供できるのではないかと、まず須貝さんとオンラインで打ち合わせをさせていただいて一緒に挑戦してみることにしました。

▲スパイスキューブ株式会社の代表取締役・須貝翼さん(左)と、エア・ウォーター北海道が運営する「エア・ウォーターの森」のマネージャー、棟方佑介さん(右)
—実証試験の期間や内容はどのように決めたのでしょう。
棟方さん:スパイスキューブさんの装置を使って低コストで苗づくりができれば農家さんの役に立つんじゃないかというのが始まりです。まずは調査をしようと行政の協力も得て100軒ほどの農業経営者へデジタルベースのアンケートを実施しました。ところが回答率がすごく低くて参考になるデータにならない。今思えば、なんらかのインセンティブが必要だったと反省しているのですが、とにかくそういう結果でしたので、とりあえず北海道では珍しい、付加価値の高い野菜や果物の育苗を試してみようということで、当社のオフィスのある「エア・ウォーターの森」に装置を導入して、須貝さんやビジネスコミュニティHOP(※)のメンバーで種まきをしました。
—実証実験の結果はどうだったのでしょうか。
棟方さん:1月中旬に種をまくと、京野菜やペッパークレソンは発芽してどんどん大きくなりました。聖護院大根なんかは私が出張でいなかった1週間に葉を大きく伸ばしていて、びっくりするほど生長しました。
須貝さん:苗は通常10センチくらいで出荷しますけど、大根はもう50センチくらい育ってますもんね(笑)。
棟方さん:一方で、アスパラガスとメロンは発芽しませんでした。
須貝さん:温度帯が低かったのかもしれませんね。同じ作物でも品種によって水耕栽培に向くものと向かないものがあるので、試験をしながら探していく必要がありそうです。
棟方さん:当社のスタッフが水や液肥の管理をしてましたが、手がかかりませんね。LEDも夜はタイマーで勝手に消灯します。
須貝さん:今回使ったのはアイシン高丘株式会社と共同開発して大阪・関西万博に出展した「Leafus(リーファス)」という溶液循環の装置です。一般的な植物工場は、プールみたいに水を貯めなければならないのでどうしても重量が大きくなるのですが、これはフィルムの上に溶液を流す薄膜水耕の機構なので軽いのが特長。縦方向にも積み上げられるし、ワイヤーなどで吊すこともできます。この装置では無理ですが、太いパイプに水を流す装置「AGROT(アグロット)」なら、カボチャやメロンも収穫できます。

▲聖護院大根、万願寺とうがらし、賀茂なすなどの京野菜をはじめ、ペッパークレソン、ミニ人参、メロン、アスパラガスなどの種を植えて生育を調査しました。
コンセントがあれば、どこでも農業ができる
—そもそも須貝さんが2018年にスパイスキューブ株式会社を起業するまでの経緯も教えてくださいますか。
須貝さん:もともと、ものづくりの会社に勤めていてプロダクトの設計をしていました。一方で、農業に興味があって、週末や夏休みなど鳥取県のトマト農家に弟子入りして会社に内緒で住み込みで働いていたんです。農業が面白くて、自宅で水耕栽培ができないかと、ホームセンターで買い集めた材料で装置を作り、葉物野菜を育ててみたら、ちゃんと育つ。それで子どもが4歳のとき、10年勤めた会社を辞め、退職金をつぎこんで起業。今は大阪市内の空き家を借りて3カ所に植物工場をつくり、飲食店に野菜を販売しつつ、開発した装置による事業化支援も行っています。

▲スパイスキューブの社名は「誰かの人生にいい刺激を与えられる存在になりたい」と名づけたそうです。
—給水も排水もない場所で野菜を育てられるんですね。
須貝さん:コンセントさえあれば、どこでも野菜を育てられます。この「Leafus(リーファス)」は40〜50リットルの水を下のタンクから一番上のパイプに給水し、徐々に水を落として循環させる仕組み。液肥を適宜つぎ足します。23WのLEDが4本と30Wのポンプだけなので電気代もエアコン程度。ここに設置したときも、最初は階段下に置いたんですけど、インナーテラスの方がいいんじゃないかって、3人でずるずる運びました。農業インフラが簡単に移動できちゃうって面白くないですか。
—オフィスビルですから、たくさんの人の目にとまりましたよね。
棟方さん:コワーキングスペースのフロアなので、入居者はもちろん見学者も多く、「これ何ですか?」と興味を示す人がたくさんいました。そもそもエア・ウォーターの森は「イノベーションハブ」と謳っているオープンイノベーション施設で、スタートアップやラボも入居していますから、ここに置くことで新しい出会いにつながればいいのかなと思っています。

▲札幌市中央区、JR桑園駅のそばに2024年にオープンしたオープンイノベーション施設「エア・ウォーターの森」。コワーキングエリアやホールがあります。

▲「エア・ウォーターの森」のマネージャーとして交流会やイベントを企画・運営している棟方さん。
農作物の流通構造から変えていきたい
—次の展開はどのようにお考えですか?
棟方さん:農業の現場でどのような需要があるのかをヒアリングして、それらの育苗が可能かを実証してからですけど…。例えば閉校した校舎に装置を置いて、春は地域の農家さんに苗を供給して、その後は違う野菜を育てて給食に提供したり、面白い展開ができそうです。何毛作もできるわけですよね。
須貝さん:葉物野菜なら年間に16回以上回転できます。
棟方さん:苗だったり、ケールのような新顔作物だったり、その時に必要なものを提供できたらいいですよね。
須貝さん:冬の農閑期の収入源にもなりますよ。冬に野菜を育てて出荷したいと、長野県の果樹の農家さんからも装置の注文をいただきました。

▲天候に左右されず、虫もつかないので、東京都内のカフェでは店舗の一角で野菜を栽培して客に提供しています。大玉トマトやナスのような茎丈の長いものや根菜はつくれませんが、葉物やハーブ、稲も育ちます。(スパイスキューブ株式会社提供)
—スパイスキューブさんは農作物の流通構造の改革も訴えていますね。
須貝さん:一生懸命つくった作物なのに自分で値段を決められないのは悲しくないですか。私は農家を始めて10年経ちますが、うちは「出口戦略特化型」です。大阪の空き家を利用した植物工場から直接、飲食店に販売しています。取引先はミシュラン一つ星のレストランもあれば、焼き肉チェーン、カフェなどですが、飲食店のほしいタイミングで提供できるし、無農薬で洗わなくてもいいから仕込みが楽。相場で価格が変わらないので飲食店のオーナーも経営計画が立てやすい。20坪の植物工場で月100万円の売上になりますよ。
棟方さん:繁華街の空きテナントなどを工場にして、周辺に売り先が数軒あれば、配達コストもかかりませんね。
須貝さん:例えばホテルの使われていないチャペルを植物工場にして、レストランで使う野菜を育てる「自産自消」も可能です。うちの装置は低価格なので、不動産や電気工事などの中小企業が新規事業として始めるケースも多いですよ。必要なら当社で販売先の開拓も支援します。
棟方さん:ポイントは出口が見えているかどうかですね。
須貝さん:そうなんです。現状の植物工場の6割は赤字といわれますが、それは仲卸業者に売るからです。これだけ物流が発達していたら、仲買とか仲卸とかいらないですよ。生産者が自分で価格を決められるようになれば、黒字化できるし、後継者も増える。私は一次産業の流通構造を変えたくて、スパイスキューブという会社をやっています。

▲JR西日本とカーボンエクストラクト株式会社とで共同開発して大阪・関西万博の主要駅の中に設置した二酸化炭素の削減を実現した農業装置「ファーマリウム」。(スパイスキューブ株式会社提供)
—小型農業装置は「農福連携」にも有効だと提案していますね。
須貝さん:実は起業してから一度、うつ病のような状態で数か月引き籠った(お金が無さ過ぎて病院には行っていない)ことがあって、そのときに気づいたんですけど、精神病のレッテルを張られると社会復帰が難しかったりするんですよね。でも小規模屋内農業なら、ハンディキャップをお持ちの方にも働く場を提供できる。人とのコミュニケーションが苦手な人でも活躍できますし、当事者はもちろん親御さんが「ずっと働ける場所ができた」と喜んでくれて、そういうときはこの仕事をやっててよかったと心から思います。
棟方さん:それはリハビリで? それとも本格的な就労で?
須貝さん:両方ありますよ。社会福祉法人にも民間の就労支援施設にも導入実績があります。一般企業でも法定の障がい者雇用を達成できるからと、新規事業として取り組む事業所もあります。
棟方さん:なるほど。たぶん収穫体験とかエンタメ分野とも相性良さそうですよ。キッザニアとか子ども向け施設なんかでも最先端のアグリテックとして喜ばれそうな気がします。

▲次にトライするのは、エディブルフラワーやパクチー、レモンバジル、ケール、カラシナなど。須貝さんが用意した種で挑戦してみる予定。
オープンイノベーションは「3D」で活性化
—最後に、今回の共創で得たこと、オープンイノベーションの価値や意義についてお聞かせください。
棟方さん:北海道には製造業や研究機関が少なく、オープンイノベーションの文化が定着していないので、そこを促進していこうと、この「エア・ウォーターの森」が誕生しました。スパイスキューブさんとの共創もそうですが、ここで従来の事業活動では接点のない方々に出会えることが財産だと思っているので、私も推進役としてもう少し発展的に広げていきたいと思っています。
須貝さん:大阪は商業のまちだからなのか、庁舎の中にオープンイノベーション施設があって自治体がスタートアップを応援してくれる。資金提供なら東京が活発ですけど、大阪は経営指導のプログラムが非常に多いです。
棟方さん:北海道にも一応、アクセラレータープログラムがあるんですけども、やっぱり規模感が違うんでしょうね。
須貝さん:大阪の場合、中小企業診断士など専門家が月間の売上とか決算書とか共有して助言するハンズオン支援が半年以上あったりしますね。スタートアップ側がとても盛り上がるのは、賞金の出るビジネスコンテスト。賞金が欲しいわけじゃなくて、目的は知名度アップなんですけど、たとえば北海道の事業所を半年間、無償で提供しますとか、そういうのがあると大阪の企業も進出しやすいと思います。
棟方さん:私はオープンイノベーションって3Dだと思っていて、異業種の横方向だけではなく、いろんな世代の縦方向も混ざり合うことで、活性化するんじゃないかな、と。なので、今は学生を巻き込んでいく仕組みを考えているところ。今回に限らず「エア・ウォーターの森」を実証の場所として広く提供していきたいと思っています。

▲須貝さんと棟方さんはすっかり意気投合。昔からの知り合いのように会話が弾んでいました。
※HOP (Hokkaido Open Platform):北海道の情報拠点になることを目的としたビジネスコミュニティ。道内企業・組織・個人をネットワークし、ビジネス上の課題解決のサポートを行っています。
(本共創事例のメンバー)
■スパイスキューブ株式会社
■エア・ウォーター北海道株式会社
https://www.hokkaido-awi.co.jp/
(お問い合わせ)
■STARTUP HOKKAIDO実行委員会
HOP(Hokkaido Open Platform)事務局【所属:NTT東日本-北海道】
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