
2024年12月25日 12:00
VOL30.【スポーツとジェンダー】国際競技大会を活用したLGBTQ+権利運動の推進:プライドハウスムーブメント
全体公開
はじめに
今回は、スポーツを通じてジェンダー平等に取り組む具体的な事例として、プライドハウスの取り組みを紹介します。私自身も2024年7月に開催されたパリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会に合わせて設置されたプライドハウスパリに訪問しました。
1. プライドハウスとは?
プライドハウスは、大規模国際競技大会に合わせて、LGBTQ+当事者の選手、指導者、スタッフや、アライ(=当事者とともに行動することを望む支援者)の人たちが安心・安全に集うことができ、試合観戦や大会期間中に行われる様々なイベントを、共に共有することができる安全な居場所(セーフ・スペース)です。スポーツ現場におけるLGBTQ+についての正しい情報を発信し、LGBTQ+コミュニティとスポーツ界との関係性を築いていく場所としてプライドハウスは機能しています。プライドハウスは、国際競技大会の開催に合わせて地元のLGBTQ+コミュニティ団体が主体となり一時的に設置されます(Pride House International, online)。プライドハウスの規模や運営のあり方は地元の運営団体の運営方法に委ねられることが多く、地元のLGBTQ+コミュニティ団体は、プライドハウスインターナショナル(PHI: Pride House International)という世界のプライドハウスをコーディネーションするグループと協定書を締結することによりプライドハウスを設置することができます。
最初にプライドハウスが設立されたのは、2010年の冬季バンクーバーオリンピック・パラリンピック競技大会です。以来、2024年の7月までに25のプライドハウスが設置されています。2014年にロシアで開催されたソチオリンピック・パラリンピック競技大会では、ロシア政府が「(通称)同性愛宣伝禁止法」を制定し、ロシア国内で公的な場でのLGBTQ+当事者の権利に関する活動ができなくなってしまったため、プライドハウスが設置できませんでした。その際に作られたのがPHIで、その後、PHIは世界のプライドハウスを繋ぐ団体としての役割を果たしてきました(Pride House International, online)。
2.LGBTQ+コミュニティとアライの団結を強化したプライドハウス東京
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」とする)ではプライドハウス東京(PHT: Pride House Tokyo)が設置されました。PHTは従来までのプライドハウスと異なり、地元の1つのLGBTQ+のコミュニティ団体が中心となるのではなく、日本のLGBTQ+コミュニティ団体や社会課題やダイバーシティ推進に取り組む非営利団体、LGBTQ+コミュニティを応援したいと考える企業、大使館などが参画するコンソーシアムを形成し、①東京大会期間中にスポーツとLGBTQ+の情報発信をし、東京に訪れたファンやアスリートやその家族に安心で安全なスペースを提供すること、②東京大会を絶好の機会と捉え、コレクティブ・インパクトで国内の課題にアプローチをし、社会の変化を生み出すこと、③東京大会のレガシーとして、東京に次世代のLGBTQ+の若者のためのLGBTQ+センターを設立すること、の3つを目標としてスタートしました。東京2020大会の機運は、国内のLGBTQ+コミュニティ団体、社会課題に取り組む非営利団体、アライの企業、各国大使館を連帯させ、日本のLGBTQ+コミュニティにとって悲願であった、日本初の常設の大型LGBTQ+センター(プライドハウス東京レガシー)を東京で設置することが実現しました。こうしたPHTの取り組みは、プライドハウスの歴史上、初の大会公認プログラムとしても登録されました(PHT, online、 野口, 2024)。
図 1 プライドハウス東京レガシーの様子
3.国際オリンピック委員会(IOC)との公式連携として実施されたプライドハウスパリ
パリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会(パリ2024大会)では、パリのLGBTQ+団体であるFier-Playが国際オリンピック委員会(以下、「IOC」とする)と公式に連携を図り、フランス政府のサポートも受けながらプライドハウスパリ(PHP)を大会期間中に設置しました。セーヌ川沿いの船の上のレストランに設置されたPHPは船内に、アスリートのメッセージが展示され、船の外には特設ステージも設置されました。またLGBTQ+コミュニティのパフォーマーによるショーや、大会のライブビューイングが実施されていました。IOCのヤングリーダーがアンバサダーの中心となり、他のアスリートにも声をかけ、毎日のようにオンライン、オフライン双方での、LGBTQ+に関するイベントが実施されていました。また、パリ以外の大会会場では、可動式のPHPポップアップブースが設置され、大会を通してLGBTQ+に関する啓発活動が行われていました(Paris2024, 2024)。
図 2 プライドハウスパリの外観
4.東京からパリへ。プライドハウスの連帯
私自身も所属するPHTは、パリ2024大会期間中にプライドハウスパリに訪問して、プライドハウスのバトンをパリに渡しました。プライドハウスの名のもとに国際競技大会は国内外のLGBTQ+のコミュニティの連帯を強化します。PHTからPHPへ、徐々に大会組織委員会との連携が密になる中で、コモンウェルスゲームズでは、プライドハウスを設置することが義務付けられています。PHIの理事のEmy Rittさんは、「すべてのプライドハウスはユニークである。そのすべてがプライドハウスである。LGBTQ+の活動を支える多くのボランティアに感謝したい」と述べていました。各地域のLGBTQ+コミュニティがそれぞれの地域特有の課題に合わせて国際大会とプライドハウスを活用している様子が興味深いです。
図 3 プライドハウス東京がプライドハウスパリへのハンドオーバー用に制作したフラッグ
以下は、プライドハウス東京が発表しているプライドハウスパリの訪問レポート動画です。ぜひご覧ください。
参考文献
Paris 2024; Pride House · Paris 2024- a legacy for more inclusive sport. 2024.
Pride House International :What us a Pride House?. online.
https://www.pridehouseinternational.org/about/
Pride House Tokyo: プライドハウス東京とは. online.
野口亜弥: 多様性と調和-LGBTQ+の権利運動とプライドハウス東京コンソーシアム(石坂友司、小澤考人、金子史弥、山口理恵子編著:<メガイベントの遺産>の社会学 2020東京オリンピックは何を生んだのか). 青弓社. 2024.
執筆者
野口 亜弥(のぐち あや)成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター 副センター長
専門は「スポーツと開発」と「スポーツとジェンダー・セクシュアリティ」。米国の大学院にてMBAを取得。
スウェーデンでのプロ女子サッカー選手の経験を経て現役を引退。その後、ザンビアのNGOにて半年間、スポーツを通じたジェンダー平等を現場で実践。
帰国後、スポーツ庁国際課に勤務し、国際協力及び女性スポーツを担当。現在は成城大学文芸学部専任講師。
各種講演やNGOや行政のプロジェクトにも専門家として参画。博士課程在籍。プライドハウス東京アスリート発信チーム。株式会社Azitama代表。
過去の記事
独立行政法人 日本スポーツ振興センター
まだコメントがありません。コメントしてみましょう
コメントするにはまずはログインまたはアカウントの新規登録をしましょう