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2024年2月13日 17:00

更新

2024年11月27日 0:44

VOL2.【スポーツとジェンダー】UN Women『平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み(Sport for Generation Equality Framework)』

全体公開

はじめに

 スポーツにおけるジェンダー主流化の動きをご存じですか。2020年にUN Womenは「平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み(Sport for Generation Equality Framework)」を発表しました。本記事では、6つの基本原則に沿って、スポーツと開発における「ジェンダー主流化」の視点を紹介します。


1.ジェンダー主流化とUN Womenの「平等を目指すすべての世代(Generation Equality)」

 1995年に開催された「第4回世界女性会議」では、北京宣言と北京行動綱領が採択され、「ジェンダー平等と女性のエンパワーメント」が国際社会共通の新たな目的となりました。その2年後の1997年の「国際経済社会理事会」では、ジェンダー平等の達成の手段として、「ジェンダー主流化(Gender Mainstreaming)」の概念が発表され、以下の通り定義されました(内閣府, 2018)。

ジェンダー視点の主流化とは、法律、政策、事業など、あらゆる分野のすべてのレベルにおける取組みが及ぼしうる女性と男性への異なる影響を精査するプロセスである。それは、政治、経済、社会の領域のすべての政策と事業の策定、実施、モニタリング、評価を含むすべてのプロセスに、女性と男性の関心事と経験を統合し、女性と男性が平等に恩恵を受け、不平等が永続しないようにするための戦略である(内閣府, 2018)。

 ジェンダー主流化の概念が発表されて以降、開発におけるあらゆる分野においてこの視点が組み込まれるようになりました(内閣府, 2018)。

1995年の第4回世界女性会から25周年となった2020年に、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関であるUN Women(n.d.)は、年齢や国籍、ジェンダーに関わらず世代を超えてすべての人々が手を取りあい、あらゆる方面で平等な社会の実現を目指すキャンペーンである「Generation Equality(平等を目指すすべての世代)」を推進していくことを発表しました(UN Women日本事務所, n.d.)。また、UN Womenはスポーツ界の仕組みやスポーツに関わる関係団体がジェンダー平等実現における強い役割を担っていると考え、スポーツ現場やスポーツを通じてGeneration Equalityを推進していくために「平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み(Sport for Generation Equality Framework)」を2020年に発表しました。また、2021年にはUN Womenトルコ事務所がこの枠組みの基本原則に沿って、「ジェンダーに配慮したスポーツ組織のためのガイドライン(Guidelines for Gender-Responsive Sports Organizations)」を発行し、具体的にスポーツによるGeneration Equalityを推進していく指針が示されました。本記事ではスポーツ現場でGeneration Equalityを推進するための枠組みである「平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み」の基本原則を紹介します。

 

2.平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み(Sport for Generation Equality Framework)

 「平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み」では、以下の表にまとめた、スポーツにおいてジェンダー平等を達成するための6つの基本原則を示しています。


 原則1は、主にスポーツ組織のガバナンスに関連することです。意思決定層に女性を増やしていくことはもちろんのこと、組織の規定や戦略の中にジェンダー平等の原則取り入れていきます。ジェンダー平等を達成するための部署や委員会の設置も求められています。

 原則2は女性や女の子に対する暴力に関しての原則です。組織において子どもや弱い立場にいる人々の権利を守るセーフガーディングを導入し、暴力に対する規定や報告経路などを整えます。女性や女の子に対する暴力是正のための法律の強化、暴力禁止の研修やアスリートを活用した啓発活動、外部の専門団体との連携などが示されています。

 原則3は投資や経済的支援についてです。女性スポーツへ投資し、競技環境をジェンダー平等にしていくことや、スポーツに関わる女性(アスリート、指導者、テクニカルスタッフなど)の賃金の値上げ、プロフェッショナル人材の育成、ジェンダー平等な賞金額、引退後のキャリアのサポート等が含まれています。

 原則4はスポーツメディアのジェンダーバランス、女性アスリートのポジティブなロールモデルなどについて述べられています。女性ジャーナリストの増加、メディア現場における女性に対する暴力の是正、バイアスのない女性アスリートのメディア表象、男性の支援者の増加などが含まれます。

 原則5は女の子の運動機会に関することです。あらゆる女の子のスポーツ実施の阻害要因を取り除きます。特に思春期の女の子がスポーツから離脱しないために、安心・安全なスペースを確保し、男性や男の子にもジェンダー平等の価値を伝えていくことが必要です。

 最後の原則6はジェンダー平等のモニタリングとそれを公開することです。各組織のジェンダー平等施策について毎年モニタリングをし、UN Womenや国際団体が進捗について透明性を確保し情報公開をしていくことが重要です。

 UN Womenの「平等を目指すすべての世代のためのスポーツ枠組み」は、スポーツが特別な空間ではなく、1つの社会参画の場として、女性や女の子のよりよい人生やコミュニティの発展のために、どのようにジェンダー主流化の視点を含めて変化していく必要があるのか、包摂的な視点で示されています。

 

参考文献

UN Women:Sport for Generation Equality Framework. 2020.

https://www.unwomen.org/sites/default/files/Headquarters/Attachments/Sections/News%20and%20events/Stories/2020/Sport-GenerationEquality.pdf

UN Women トルコ:Guidelines for Gender-Responsive Sports Organizations.2021.

https://eca.unwomen.org/sites/default/files/Field%20Office%20ECA/Attachments/Publications/2021/7/UNWOMEN_Guidelines%20ENG-min.pdf

UN Women 日本事務所: 平等を目指す全ての世代: 女性の権利を考えよう. n.d.

https://japan.unwomen.org/ja/generation-equality

内閣府: 共同参画2018年6月号. 2018.

https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2018/201806/pdf/201806.pdf

 

執筆者

野口 亜弥(のぐち あや)成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター 副センター長

専門は「スポーツと開発」と「スポーツとジェンダー・セクシュアリティ」。米国の大学院にてMBAを取得。

スウェーデンでのプロ女子サッカー選手の経験を経て現役を引退。その後、ザンビアのNGOにて半年間、スポーツを通じたジェンダー平等を現場で実践。

帰国後、スポーツ庁国際課に勤務し、国際協力及び女性スポーツを担当。現在は成城大学文芸学部専任講師。

各種講演やNGOや行政のプロジェクトにも専門家として参画。博士課程在籍。プライドハウス東京共同代表。

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