
2026年4月13日 10:16
2026年4月13日 1:41
共創マガジンvol.7 ~スタートアップと事業会社の出会いをプロデュース! 「Open Innovation HOKKAIDO 2025」の舞台裏 ~
全体公開
地域の課題や可能性に向き合い、企業や自治体、大学・研究機関が連携して新しい価値を生み出す——そんなオープンイノベーションの実例(共創事例)をシリーズでご紹介します!
スタートアップと事業会社の出会いをプロデュース!
「Open Innovation HOKKAIDO 2025」の舞台裏
STARTUP HOKKAIDO 実行委員会
オープンイノベーションの重要性は浸透してきたとはいえ、共創・協業に向けた最初の一歩はどう踏み出せばいいのでしょうか。
そこで注目されるのが、STARTUP HOKKAIDO実行委員会(北海道経済産業局)で実施している「Open Innovation HOKKAIDO 2025」。
スタートアップと事業会社を橋渡しするマッチングプログラムの舞台裏を取材しました。
スタートアップの成長にフォーカスした支援
札幌市役所19階の社交場ヤングで取材に応じてくれたのは、STARTUP HOKKAIDO実行委員会(以下STARTUP HOKKAIDO)の千葉晴希さんと新発田大地さん。
千葉さんは北海道経済産業局 産業技術振興課でスタートアップ・産学官連携推進を担当、新発田さんはSTARTUP HOKKAIDOでオープンイノベーション領域を統轄するマネージャーとして活動しています。

▲写真左から、新発田大地さん(さくらインターネット 社長室イノベーション共創グループ スタートアップチーム北海道担当)、千葉晴希さん(北海道経済産業局 産業技術振興課 スタートアップ・産学官連携推進係)
—「STARTUP HOKKAIDO」の組織について、あらためて教えてください。
新発田さん:以前は北海道、札幌市、北海道経済産業局がそれぞれでスタートアップ支援の施策を行っていましたが、目指すところは同じなので、オール北海道体制でやっていきましょうと、民間企業や大学などの研究機関も含めた実行委員会として組織されました。「北海道からグローバルを目指すスタートアップが生まれ育つエコシステム(生態系)をつくる」ことを目的に活動しています。
千葉さん:市・道・国の3行政がこんなに仲がいい地域は全国的にも珍しく、国内でも評価されています。新発田さんはオープンイノベーション領域のマネージャーで、私たち北海道経済産業局(以下、北海道経産局)の事業はもちろん、同時並行で走っているさまざまな事業を統括してくれています。
新発田さん:STARTUP HOKKAIDOの支援対象は道内のスタートアップだけと思われがちですが、道外のスタートアップが北海道で事業を展開するとか、北海道をフィールドに実証するようなケースも支援していて、北海道におけるスタートアップの集積もテーマにしています。
千葉さん:STARTUP HOKKAIDOではスタートアップの創出から成長、最終的なEXITとなるIPO(新規株式公開)やM&Aまで、一気通貫で支援しています。STARTUP HOKKAIDOが発足して3年、機運醸成のイベントなどを続けて裾野が広がってきていますので、現在はスタートアップの高さを出す施策、スタートアップをいかに成長させていくかを意識して取り組んでいます。役割分担も一応あって、たとえば北海道大学などの研究機関はスタートアップ創出に向けたアントレプレナー(起業家)教育等、札幌市であれば社交場ヤングのような拠点づくり・イベント開催、道庁ならスタートアップと自治体の連携支援、私たち北海道経産局はスタートアップをいかに成長させるかにフォーカスした支援を役割としています。
—スタートアップの成長を促す支援とは具体的にいうと?
千葉さん:大きく二つあって、一つは知的財産の戦略策定のサポートです。ヒト・モノ・カネの経営資源がないスタートアップにとって知財は重要な武器。事業会社と連携したり、ベンチャーキャピタルなどから資金を調達したりする上でも、特許の有無や、本当にその会社でしかできないことかどうかを問われます。なので、どのような戦略で特許を出願するべきかなど、ビジネス面と知財面の両方に長けた専門家を交えて伴走的な支援を行っています。
もう一つは道内のスタートアップと全国の事業会社を結びつけて、新しい共創・協業を促していくオープンイノベーションのマッチング事業です。どちらもスタートアップの売上規模拡大につながるよう本気で取り組んでいます!

▲「オープンイノベーションの好事例を生み出すには、スタートアップと事業会社とを『翻訳・通訳』しながら結びつける機能が重要」と語る千葉さん
「Open Innovation HOKKAIDO 2025」の舞台裏
—マッチングプログラム「Open Innovation HOKKAIDO 2025」はどのような内容ですか?
千葉さん:スタートアップや研究者等と事業会社との共創・協業を推進するため、事業会社からの課題に応じた「ニーズ」と、革新的な知的財産を有するスタートアップや研究者からの「シーズ」、それぞれに対しての共創・協業提案を募集し、個別マッチングを実施する事業です。
かねてから、北海道経産局では事業会社の掲げるニーズに対し、スタートアップや研究者が独自の技術やサービスを提案するスタイルのマッチングに取り組んできました。
しかし、そうしたニーズベースのマッチングのみだと、マッチングできる先がエントリーしている事業会社の現状求める対象だけに偏ってしまい、北海道のスタートアップとの組み合わせに限界がある。そこで「Open Innovation HOKKAIDO 2025」では、新たにスタートアップ・研究者側が自らの持つ技術をシーズとしてお披露目し、興味のある事業会社に手を挙げていただく新たなアプローチにも取り組むことにしました。
結果として、ニーズベースで解決したい課題を掲げてエントリーしてくださった事業会社は9社、こんな新しい技術・サービスがあるとシーズベースで共創先を求めたスタートアップは14社となりました。
—黙っていても応募や提案は集まるものですか。
千葉さん:そうなってくれると嬉しいのですが、、、まだまだそんな状況ではないのが北海道の実情です。特に新たに始めたシーズベースのマッチングについては、HPを公開すれば提案が勝手に集まるような類いのものではないので、私がスタートアップの技術営業代行みたいな感じで、刺さりそうな事業会社へがしがしアプローチしました。道内はもちろん東京などのビジネスイベントに出て、道内スタートアップ14社の新技術についてざっと説明するなど、とにかく露出することを心掛けました。ニーズ・シーズ併せて、かれこれ100社くらいにアプローチして、6〜7割くらいの方が詳細な個別説明を聞いてくださいました。

▲ビジネスコミュニティHOPのイベントで、「Open Innovation HOKKAIDO 2025」のエントリー企業について広く紹介。
—6〜7割がヒットだとすると打率は高いですね。
千葉さん:経済産業省・北海道経産局というと、とりあえず話は聞いてくれます(笑)。極論を言うと、金銭面の補助以外に行政ができる支援の強みは二つだと私は思っています。一つは公的な信頼感をもとにいろんなところを巻き込み、ものごとを進める「ハブ機能」、もう一つは公的な安心感をもとに大きな方向性を示し、旗を振る「広報的な推進力」。この二つの強みを生かすことが行政にできる支援だと考えています。
win-winな出会いを求めて
—マッチングはどのようなプロセスですか?
千葉さん:スタートアップの独自技術を噛み砕いて、どういう伝え方をしたら事業会社の方に食いついてもらえるか、「翻訳・通訳」の立場を意識しました。興味を持っていただけた場合は、我々が間に入ってファシリテートしながら、まずオンラインで面談をします。お互いの会社の概要や、今抱えている課題をディスカッションしながら、スタートアップ側にできることをアピールしてもらいます。
話がうまくまとまって、今度は実際に会社に来てよ、みたいな感じになれば、お互いの承諾をいただいた上で連絡先を共有し、後は両者で進めてもらいます。まだ課題が残るときは2回目の面談をセッティングする場合もありますし、ニーズとズレがある場合は一旦ここまで、となるケースもあります。
—トータルの面談件数はどのくらい?
千葉さん:11月の受け付けから2月末の締め切りまで、ニーズベースとシーズベース合わせて84件の提案をいただき、3月中旬までに60件以上の面談が成立しています。まだオープンにできないのが残念ですけど、ライセンス契約につながりそうな案件が5件くらい出ていますし、ほかにも東京での実証実験が決まったケースや、協業にて補助金を申請しようという動きなどもあります。
—スタートアップはともかく、事業会社に参加を促すのは、とても難しそうな気がしますが…。
千葉さん:道内は、まだまだオープンイノベーションの機運が高いとまでは言えない状況なので、スタートアップと相性の良さそうな道内の事業会社に参加していただくのは、実はめちゃめちゃ大変です(笑)。夏前ぐらいから「こういうプログラムをやるんで」と、一社一社当たって口説いてます。
STARTUP HOKKAIDOの定例会議でも「どこか候補はないですか?」と尋ねて、札幌市や道庁のネットワーク、HOPなど民間のビジネスコミュティのみなさんから情報をもらいました。
新発田さん:結局、我々支援者側がスタートアップにできることは、リソースを代替するか、助成金などの資金を紹介するかくらいなんですよね。そのリソースの代替を緻密に突き詰めたのがこの「Open Innovation HOKKAIDO 2025」で、スタートアップ支援の本質といえるんじゃないでしょうか。

▲STARTUP HOKKAIDOでは、さまざまな立場の人がフラットに結びつき、有機的に連携しています。
千葉さん:すごく簡単に言うと、我々の目的は北海道からスタートアップがたくさん生まれて、たくさんEXITするようなエコシステムを構築することですが、それにはスタートアップと地場の企業や産業との共創・協業が不可欠です。でも、道内の事業会社はまだまだオープンイノベーションに対する関心が薄い。首都圏などではスタートアップに投資するCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を持つ会社も多いのに対し、道内はサツドラホールディングスさんの1社のみ。なので、スタートアップに興味を持ってくれる地元企業を少しでも増やしていくのも我々のミッションの一つです。今回、道内企業が4社、共創ニーズを掲げてエントリーしてくれたのは、大きな成果だと思っています。そういえば、そのうちの1社、岩倉建設さんは新発田さんが紹介してくれた会社でしたよね。
新発田さん:去年は札幌市内だけではなく、道内各地のビジネスイベントに積極的に参加するようにしていたのですが、苫小牧で企業の社長が主催する経営塾に参加した際にお会いした方が、新しい技術に貪欲でとても熱量のある方だったので、可能性があるのでは…と。オープンイノベーションに興味を持つ方との接点を常に探しておくのが僕の役割だと思っています。
どこまでオープンにするのか、情報公開の難しさ
—公開されているエントリーシートを見て思ったのですが、企業の経営戦略を社外にさらすリスクはありませんか?
千葉さん:秘匿しておきたい経営戦略や技術情報が世にオープンになることの懸念は確かにあります。特に大手の事業会社には「どこまでオープンにしますか?」と確認。事務局側だけで把握しておくクローズドの情報とオープン情報を使い分けました。
—面談でアイデアだけもらって、自社開発しようという企業は出てきませんか。
千葉さん:その危険性はあると思います。なので、今回はディープテックと呼ばれるような独自技術・特許を持つスタートアップを参画条件にしました。我々の支援は知財のサポートとマッチングの二本柱と先ほどお伝えしましたが、プロテクトしておかなければ、「そのネタいいね」といいように利用されてしまう。そこは注意してやっています。
マッチングの後も、事業会社とライセンス交渉や契約の締結の際は、専門家を派遣して、不利な条件になっていないかなどを確認。あくまで我々は、スタートアップ側の成長支援としてフォローしていきます。

▲札幌市役所19階にあるスタートアップ交流拠点「社交場ヤング」。イベントや相談会などに活用されています。
道内企業とスタートアップの共創を加速させるには
—今回のプログラムで明らかになった課題とは?
千葉さん:スタートアップ側のエントリーシートには、想定される共創分野などを書いていただくのですが、そこがふわっとしているケースが意外と多いんです。反対に、営業をかけたい先が明確になっていると非常にマッチングしやすい。実証のフェーズ、販路拡大のフェーズなど、フェーズごとに、どのような層に当たっていきたいか営業戦略をあらかじめ考えておくことが大事だと感じました。
もう一つはやはり地場産業の巻き込みです。オープンイノベーション自体にハードルを感じる企業がまだまだ多いので、我々の支援から生まれた好事例、例えば、デンソー北海道(千歳市)と北大発スタートアップAWL(札幌市)の共創で生まれた工場監視のセンシングシステム(https://www.denso-hokkaido.co.jp/news/6217/)など、これまでのマッチング事例をPRしながら周知啓発していきたいと思っています。
—「Open Innovation HOKKAIDO」は今年度(2026年)もありますか?
千葉さん:今回新たに始めたシーズベースのマッチングがうまくいったので、2026年度も引き続きニーズベースとシーズベースの両方でマッチングを行う予定です。
もう一つ検討しているのは、大学等の研究機関で眠っている休眠特許の活用です。ディープテックスタートアップの創出にあたり、大学等の研究機関は極めて重要な役割を担いますが、そういったスタートアップの創出支援にもお金が必要で、資金の好循環を生み出す「稼げる大学」が求められています。民間から資金を獲得し、その資金がまたスタートアップの創出支援に循環するような仕組み化のためにも、休眠特許と事業会社をもっと結びつけ産学連携をより加速させたいと考えています。
新発田さん:最終的には、STARTUP HOKKAIDOのような支援組織がなくても、スタートアップがどしどし生まれて、勝手に育っていくようになるのが理想ですね。

▲オープンイノベーションに興味を持つ事業会社との接点を求めて道内各地のビジネスイベントにも足繁く通っている新発田さん。
千葉さん:いまは北海道経産局やSTARTUP HOKKAIDOが、スタートアップと事業会社の橋渡し役を担っていますが、いずれはスタートアップ・研究者等とのオープンイノベーションが当たり前になってほしい。そのためには、スタートアップの技術が事業会社側にどのようなインパクトをもたらす可能性があるのか等を「翻訳・通訳」できる存在が、民間企業や地域からどんどん生まれてきてほしいと願っています。
—最後に共創マガジン読者にメッセージをお願いします。
新発田さん:事業の効率化や新規事業の立ち上げについては、まだまだ単独で取り組む企業が多いというデータが出ています。スピード感を持ってそれらを実現したいとなった場合に、オープンイノベーションは有効な手段です。STARTUP HOKKAIDOにはオープンイノベーション専用の情報ページもあります(https://startuphokkaido.com/openinnovation/)。各組織が横断的に面で支援できる体制を築いているのがSTARTUP HOKKAIDOの良さなので、オープンイノベーションに少しでも関心がある企業の方々は、ぜひ気軽にコンタクトしてくれたらうれしいです。
千葉さん:そうですね。道内のスタートアップに資することは、極力柔軟にやっていこうというのが北海道経産局のスタンス。ちょっとした問い合わせもウエルカムです。いつでもお待ちしています!
なぜスタートアップがこんなに支援されるのか。裏を返せば、硬直化した社会システムを打破するイノベーションが、それだけ期待されているということなのかもしれません。今日もたくさんの人がスタートアップ・エコシステム実現のために、それぞれの持ち場で努力を重ねています。
(本共創事例のメンバー)
■Open Innovation HOKKAIDO 2025
https://www.hkd.meti.go.jp/hokig/20251112/index.htm
■北海道経済産業局
(お問い合わせ)
■STARTUP HOKKAIDO実行委員会
HOP(Hokkaido Open Platform)事務局【所属:NTT東日本-北海道】
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