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2024年2月26日 8:00

更新

2024年6月5日 2:20

VOL4.【スポーツと環境・気候変動】国際スポーツ組織における気候変動対策とは?

全体公開

はじめに

 みなさんは「スポーツと気候変動」と聞いて、何を思い浮かべますか?昨夏の猛暑や近年の雪の減少は、気候危機がもう待ったなしの状態になっていることを私たちに訴えかけています。

実際、スポーツをする環境は気候危機によって年々脅かされていますが、日本のスポーツ界ではまだまだその危機感が足りないのが現状ではないでしょうか。

 今回は、「スポーツと気候変動対策」の国際動向についてご紹介します。スポーツの国際社会では、気候危機への対策がすでに主流になってきています。

オリンピック・パラリンピックでは、新しいスタジアムを建てずにできるだけ既存の施設を改修して使っていこうという動きが定着しつつありますが、これも新規スタジアム建設にかかる環境破壊やエネルギー消費を抑える目的があります。特に昨年のラグビーW杯や来年のパリオリンピック・パラリンピックではかつて類を見ないほど、とことん環境・気候変動に配慮された取り組みが準備されています。

 今回の記事では、その取り組みについて説明するのではなく、各国際スポーツ組織がどのような概念や政策フレームワークで気候変動対策に取り組んでいるのかをご紹介します。

 

1.   「スポーツ気候行動枠組み」

 まずご紹介するのは、スポーツ界横断的な気候変動の枠組みである、「スポーツ気候行動枠組み」(Sports for Climate Action)です。この枠組みは、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)と国際オリンピック委員会(IOC)がリードし、2018年のCOP24(国連気候変動枠組条約締約国会議)で発足したもので、スポーツ界全体として気候変動を食い止めるために、包括的に脱炭素化を進めていくことを目指しています。現在までに300以上のスポーツ団体が署名しています。

 

「スポーツ気候行動枠組み」の5原則

1.   より大きな環境責任を担うため、組織的な取り組みを行う

2.   全体的な気候変動への環境負荷を削減する

3.   気候変動対策のための教育を行う

4.   持続可能で、責任ある消費を推進する

5.   コミュニケーションを通じ、気候変動対策を啓発する

この5原則のもと、CO2排出量を2030年までに半減し、2040年までにゼロとする目標を掲げています。この目標を達成するためにまず各団体が取り組んでいるのは、CO 2排出量の測定です。測定をし、組織や競技が生み出している環境負荷を認識することにより、削減のために必要なアクションを模索することができます。

 

2.   国際オリンピック委員会(IOC)

 IOCの気候変動の取り組みは、(i) 自団体、(ii) オリンピック大会、(iii) オリンピックムーブメントのリーダーとして、という3つのレベルで進められています。「IOCサステナビリティ(持続可能性)戦略」の文書の中で、「気候変動」は5つのフォーカス分野のうちの一つに掲げられていますが、それ以外の4分野でも「脱炭素」はすべての取り組みの考え方の軸となっていると言えます。

 

(出典)IOCサステナビリティ戦略文書

 

3.   国際サッカー連盟(FIFA)

 サッカーW杯を開催するFIFAは国際連盟の中でもいち早く(2006年ドイツW杯から!)その責任を自覚し、現在も「FIFAクライメート(気候)戦略」を掲げ、スポーツ界の気候アクションをリードしています。

FIFAの気候戦略は、以下の4つの柱に分かれています。

(i)  教育 Educate(サッカーに関わる人々にその影響と解決策を啓発)

(ii) 順応 Adapt(予測される気候変動の影響に対応するための柔軟性やレジリエンス(=跳ね返す力)を持たせる)

(iii)削減 Reduce(FIFAとサッカー界の脱炭素化によりパリ条約に貢献する)

(iv)支援と投資 Support & Invest(サッカー関係者に対し、解決策を提示したりそのために必要な投資をする)

 

4.   ラグビーW杯

 団体としての政策だけでなく、国際大会でも、開催ホスト国の取り組みはどんどん加速していっています。たとえば昨年のフランス・ラグビーW杯でも、非常に積極的な取り組みが行われました。「ポジティブ・インパクト」と名付けられたその取り組みでは、持続可能性に寄与する様々なイニシアチブが取られましたが、その中でも「サーキュラー・エコノミー」や「環境負荷削減」は、目玉となる取り組みでした。選手やスタッフの移動に飛行機ではなく電車を推奨すること、ゴミ処理、地産地消や国内に限った調達、食品ロス対策、それにかかる啓発などを目に見える形でPRし、如何にCO2削減をするかを一般市民にもわかりやすい形で提示しました。

 

 いかがでしたでしょうか。今回の記事では、国際スポーツ団体や国際大会の組織委員会が、どのように気候変動対策のフレームワークを作り、対策に本腰を入れて取り組んでいるかを簡単にご紹介しました。日本でも、世界に遅れることなく、この課題にスポーツ界として体系的に取り組んでいくために、議論していけたらと思います。

執筆者

井本直歩子 (いもと なおこ) 一般社団法人SDGs in SPORTS 代表理事

途上国教育専門家。元競泳日本代表。’96年アトランタ五輪4x200mリレー4位。

現役引退後、国際協力機構(JICA)、国連児童基金(ユニセフ)の一員としてシエラレオネ、ルワンダ、スリランカ、ハイチ等発展途上国の平和構築、教育支援に従事。

近年は一般社団法人SDGs in Sportsを立ち上げ、スポーツ界のジェンダー平等、環境・気候変動対策に取り組む。日本バドミントン協会理事。

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