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2026年1月23日 8:56

更新

2026年1月23日 8:10

共創マガジンvol.2 ~大気中のCO2を除去する新技術 DAC(ダック)の実証に“前のめり”で協力。 CarbonNest株式会社 × 石狩市~

全体公開

共創マガジンvol.2 

地域の課題や可能性に向き合い、企業や自治体、大学・研究機関が連携して新しい価値を生み出す——そんなオープンイノベーションの実例(共創事例)をシリーズでご紹介します! 

大気中のCO2を除去する新技術 

DAC(ダック)の実証に“前のめり”で協力。 

CarbonNest株式会社 × 石狩市 

新しい技術やサービスが社会実装されるまでには、繰り返し実証試験が行われます。 

今回、大気中のCO2を回収する新技術DAC(ダック)装置の開発を手掛けるスタートアップ、CarbonNest株式会社(東京都文京区)の実証試験を受け入れたのは、石狩市環境課でした。 

どのような経緯があったのでしょう。石狩市民図書館で取材しました。 

自社開発のDAC(ダック)の実証フィールドを求めて

石狩市民図書館の読書テラスに据え付けられたのが、CarbonNest社開発のDAC(ダック)装置です。

▲DAC装置(左)の隣には、石灰水入りの水槽を設置。回収したCO2が混ざると白く濁るため、CO2除去をわかりやすく「見える化」しています。 

▲市民図書館の内部には二酸化炭素濃度を表示するモニターを設置。1〜2時間に一度、回収したCO2を石灰水の水槽に送るときには数値が急激に上がります。 

DACとは何か。CarbonNestの代表、川﨑敬さんは、こう説明します。 

「DACは大気中のCO2だけを選り分け直接回収するDirect Air Captureという技術です。世界中でCO2の排出削減が進められていますが、どうしても削減できない分があり、それらを除去する手段として注目されています」 

欧米では既に実用化され、大型プラントも稼働しているそうです。 

「大きな空気清浄機をイメージしてもらえれば、わかりやすいかもしれません。日本ではDACのフィルターを研究しているスタートアップは多いのですが、躯体については後回しになっているので、我々はハードウェアのコントロール制御などを中心に開発しています」 

▲川﨑敬さん。北海道大学工学部を卒業し、東京大学大学院へ進学。機械系エンジニアとして空調会社で研究開発、外資のエネルギー企業でカーボンオフセット事業の立ち上げを経験後、2025年4月にCarbonNest株式会社を起業しました。 

低コストで柔軟性の高いハードウェアの開発を進めるなか、大きな課題だったのが実証のフィールドです。 

「50℃からマイナス25℃まで温度を変えられる環境試験室で試験していますが、雨が降るわけでも風が吹くわけでもありません。屋外で試験したかったのですが、ひとつ問題だったのが再エネ電源と近くなければならないという条件がありました。というのは、DACで使う電気が化石燃料由来であれば排出されるCO2が多くなり、CO2を回収したとしても削減効果が少なくなります。再エネのポテンシャルは北海道と九州が突出していますから、どちらかで実証できればいいなと思っていました」 

石狩市環境課ゼロカーボン推進担当との出会い

石狩市と知り合ったのは、2024年11月、東京都品川区で行われたSTARTUP HOKKAIDO主催の「北海道オープンイノベーションMeetup in EZOHUB TOKYO」でした。 

石狩市の出先機関である東京事務所の職員を介して、環境課ゼロカーボン推進担当の寺尾さん、角井さんとつながりました。 

寺尾さんは言います。 

「ゼロカーボン推進担当は昨年できたばかりの新しい部署で、環境課の中の特命係というか、プロジェクト担当みたいな位置づけでした。なので、新しい技術があるのなら、一つでも二つでも積極的にチャレンジしていきたいと思っていたんです」 

▲石狩市環境課 ゼロカーボン推進担当 寺尾陽助課長

そもそも石狩市では早くからエネルギー政策に取り組んでおり、2020年12月にはいち早く「ゼロカーボンシティ宣言」を表明。工業団地において、再エネ100%の電力を供給する「RE(Renewable Energy)ゾーン」を設定して企業誘致も進めてきました。2022年4月には国から第1回の脱炭素先行地域に選定されています。

「当初は企業連携推進課のスタートアップ支援の枠組みでサポートできないかと検討したんですが、要件と合わなかったので、そのまま環境課で担当することにして、スムーズに共創に至りました」(寺尾さん) 

DACの技術については、ご存じだったのでしょうか。 

同じくゼロカーボン推進担当の角井さんはこう話します。 

「DAC自体は知っていました。ただ、うちに導入できるようなものかまでは分かりませんでした。この先、電気についてはある程度、再エネで脱炭素化できたとしても、北海道は冬場の暖房に燃料消費が多いので、最終的に減らしきれないCO2が出てしまう。直接減らしていく技術はいずれ必要になるのではと思っていたので、ぜひ一緒にやりたいという思いでしたね」 

▲石狩市 環境市民部 環境課 ゼロカーボン推進担当 角井貴博主査

「お二人に初めてお会いしたときから『場所、どこでやりましょうか』って(笑)。前向きに検討してくださってありがたかったですね」(川﨑さん) 

「前向きというより、前のめりで(笑)、進めさせていただきました」(寺尾さん) 

こうして思いのほか順調に、実証に向けた準備は進みました。 

Local Innovation Challenge HOKKAIDO からも支援を獲得

出会いの場を提供したSTARTUP HOKKAIDOの後押しにより、川﨑さんが並行して取り組んだのが、「Local Innovation Challenge HOKKAIDO 2025」(通称:LICH)への応募です。 

LICH(リッチ)とは2020年にスタートしたオープンイノベーションプロジェクト。 

国内外のスタートアップと道内の自治体・企業が共創し、課題解決に取り組むことを目的にしており、これまで5年間に40件を超える実証試験を支援してきました。 

川﨑さんはこれに応募し、2025年10月、第2期の採択プロジェクトに選定され、提供された支援金で部品修理用の3Dプリンタを購入することもできました。 

▲輸送中や実証中に部品が壊れても、3Dプリンタがあれば現地で製造可能。東京から取り寄せれば中2日かかるようなパーツも自作できます。 

実証の期間や場所はどのように検討したのでしょうか。 

「寒冷地ならではの実証であれば、寒い時期の方がいいだろうと11月末からに設定。場所は子どもたちへの環境教育の意味も含め、当初は学校を選択肢に入れていたんですが、学校は一般の人の出入りが難しい。そこで教育機関の間口を広げて、市民図書館がいいのではないかと提案して、CarbonNestさんに現地を確認していただいた上で決定しました」(寺尾さん) 

石狩市では再エネの「地産地活」を合い言葉に、市内でつくる風車の電力を公共施設23カ所に導入しており、CarbonNest側が求める再エネ活用というハードルもクリア。こうして11月29日から2週間の予定で実証が始まりました。 

石狩市の子ども向けイベントに協力

一方的に場所を提供するだけではなく、実証期間中はCarbonNest側のアイデアによる子ども向け科学教室も実現しました。 

これは石狩市が主催する子ども向けイベント「いしかり地産地活博」の一環。市民図書館と隣り合って建つ「こども未来館あいぽーと」を会場に、石狩市の各部がブースを出して、さまざまな体験プログラムを提供し、楽しみながらまちづくりを知ってもらう企画です。 

「ちょうどDACの実証期間と重なるので、子どもたちにも新技術を見てほしくて、CarbonNestさんにブースへの出展を依頼。子ども向けの体験プログラムについてもご相談したら、科学教室をやりましょう、とトントン拍子に進みました」(角井さん) 

CarbonNestが提供したのは「ワクワクCO2ラボ! シュワシュワバスボムづくり」です。 

「当社のメンバーで学生時代、東京の日本科学未来館で子ども向けの科学教室をやっていたメンバーがいるんです。CO2の特性について学んでもらうには、炭酸の泡が出るバスボムづくりがいいんじゃないかと企画しました」(川﨑さん) 

▲好きな香りや色で世界にひとつのバスボムを手作り。1日3回の教室にたくさんの子どもたちが集まり、目をキラキラさせて参加しました。 

寒冷地ならではのエラーをさまざま経験

取材に伺ったのは2週間の実証が終わりに近づいたころ。 

設置した日は積雪ゼロでしたが、この数日間にすっかり根雪となっていました。 

過酷な条件で稼働させ、何かわかってきたことはあるのでしょうか。 

「屋内の試験室では大丈夫でも雪や風のある環境では、いろいろエラーが出ましたね。寒さでセンサーがおかしくなったり、内部の加熱用のヒーターが作動せず、急遽断熱材を買いに行ったり…。寒冷地は断熱にコストがかかるかもしれないと感じました。気温や気圧、風力など約20項目のデータを15秒間隔でとり、データベースとしてクラウド上に蓄積しているので、東京に戻ってから同じ機械でデータをとり、比較検証しようと思っています」(川﨑さん) 

想定外のことも起こりました。 

12月8日夜の青森東方沖地震です。石狩市でも震度4を観測しました。 

「DACの内部にカメラを仕込み、遠隔で監視していますし、不測の事態には電源をオフできるようにしています。地震のときも、すぐに確認して、夜中でしたけど角井さんには稼働に問題ない旨のメールを送らせてもらいました」(川﨑さん) 

▲数日間のうちに雪が積もり、過酷な条件下にさらされたDAC装置。 

今回は寒冷地でも問題なくCO2の回収ができるかどうかをテストしましたが、来年度以降は、さらに先、回収したCO2の活用についても実証を重ねる計画です。 

「回収したCO2はカーボンクレジットとして販売できるほか、さまざまな産業に活用が可能です。たとえば農業用ハウスで光合成を促すために施用したり、水素と混ぜてゼロエミッションの合成燃料を作ったり、大手ゼネコンではセメントに混ぜカーボンネガティブコンクリートとして製品化しているところもあります。苫小牧市のように地下深くに埋めてしまう手もあります。用途によって求められるCO2の純度などが違うため、DACのフィルターやハードウエアの制御も、それに合わせて最適化しなければなりません」(川﨑さん) 

今後、長さ5mほどの大型装置をつくり、回収したCO2を産業に活かすかたちで試験を行いたいと考えています。 

炭素をめぐる規制や取り引きを見据えて

川﨑さんによると、ヨーロッパではEU-ETS(EU排出量取引制度)により、製造時にCO2排出量の多い製品は炭素分に税金がかかるようになるなど、今後、脱炭素の規制はさらに強化されるそうです。世界中で脱炭素をめぐるビジネスが加速するはずです。 

「直近2〜3年は赤字覚悟ですが、いずれ国内だけではなく海外にも出たい。今回の寒冷地での実証の経験を踏まえて、環境対策の先進的なカナダなどにもアプローチしていきたいと思っています」(川﨑さん) 

ゼロカーボン推進担当のおふたりも、石狩市の脱炭素化を真剣に考えています。 

「石狩市環境基本計画では2050年のゼロカーボンに先駆け、2030年の半減※を当面の目標に掲げていて、それは今のところ達成できる見込みですが、問題はその先ですよね…」(角井さん) 

(※2013年度比) 

「どうしても削減しきれないCO2を回収するDACは、石狩市だけではなく北国にとって期待できる技術だと思います。今回CarbonNestさんとの共創をきっかけに、取材も複数ありましたし、子ども科学教室も開催でき、関係人口の創出やPR効果という点でメリットも多かったと思います」(寺尾さん) 

▲左から角井さん、川﨑さん、寺尾さん。

CO2の削減にとどまらず、分離・回収できるDACの技術。 

排出量をマイナスにするネガティブエミッション技術として、今後ますます注目が高まっていくに違いありません。 

回収したCO2を収益源に変換するには、今後さまざまなアイデアとの掛け合わせが進んでいくことでしょう。 

この有望な手段をどのように地域に生かすことができるのか。 

社会実装に向けて、実証はこれからも続きそうです。 

▲川﨑さんは株式会社D2 Garageが主催するアクセラレータープログラム「Open Network Lab HOKKAIDO」(Onlab北海道)に参加。2025年12月9日に開催されたBatch DemoDayでは「さくらインターネット賞」を受賞しました。石狩市にあるデータセンターとの連携も検討されています。 

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(本共創事例のメンバー) 

■CarbonNest株式会社 

https://carbon-nest.com/  

■石狩市 

https://www.city.ishikari.hokkaido.jp/ 

 

(お問い合わせ) 

■STARTUP HOKKAIDO 

https://startuphokkaido.com/ 

 

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