
2026年4月6日 13:27
共創マガジンvol.6 ~訪日外国人のスキーをホテルから 海外へ発送し、手ぶら観光を促進。 ShipMate株式会社 × 加森観光株式会社 ルスツリゾート~
全体公開
地域の課題や可能性に向き合い、企業や自治体、大学・研究機関が連携して新しい価値を生み出す——そんなオープンイノベーションの実例(共創事例)をシリーズでご紹介します!
訪日外国人のスキーをホテルから
海外へ発送し、手ぶら観光を促進。
ShipMate株式会社 × 加森観光株式会社 ルスツリゾート
国境を越えて海外にモノを発送するには、面倒な手続きが求められます。
その煩雑な作業を簡素化し、専門知識のない個人でも国際発送を可能にするシステムを開発したShipMate株式会社(北海道鷹栖町)。
「Local Innovation Challenge HOKKAIDO 2025」に採択され、この冬、ルスツリゾートで宿泊者のスキー・スノーボードを海外配送する実証実験が行われています。
実際にサービスを提供して、見えてきたニーズや課題とは——?
実証実験に協力した岩瀬国博さん(ルスツリゾートホテル&コンベンション宿泊グループ 支配人)と、ShipMate株式会社のメンバーにオンラインでお話を伺いました。
「もっと簡単に海外へ荷物を送れたら…」が始まり
ShipMate株式会社は、2020年のコロナ禍に北海道鷹栖町に移住した芦澤望さんとノルウェー人のダニエルさん、夫婦二人の思いから始まりました。
ノルウェーのご主人のご実家に贈り物を送ろうとすると、関税の申告書に全ての内容物の原産国や材質、用途などを記入して、該当のHSコード(すべての商品に付与される世界共通の品目分類番号)を調べたり、禁制品をチェックしたりと、煩雑な作業を求められたため、「誰でも簡単に国際発送ができる仕組みはできないものか」と考え始めました。
北海道の課題解決に取り組むスタートアップを支援するアクセラレータープログラムである「Open Network Lab Hokkaido(通称:Onlab Hokkaido)」第7期に採択いただき、様々な学びを得ながら、コード入力や禁制品のチェックを自動化し、関税を計算して最適な輸送方法を提案する国際発送の支援プログラム「ShipMate(シップメイト)」と、必要な書類を自動作成できる端末「ShipStation」を開発しました。
今回ルスツリゾートでの実証実験では、「ShipStation」端末を使い、訪日外国人のスキーやスノーボードの国際発送に挑戦することになりました。

▲上段左からShipMate株式会社の芦澤望さん、吉岡龍二郎さん、小野綾香さん。下段左からルスツリゾートホテル&コンベンション宿泊グループ 支配人の岩瀬国博さん。HOPメンバー。
—まず「Local Innovation Challenge HOKKAIDO 2025(通称:LICH)」に応募して実証実験に至るまでのいきさつを教えていただけますか。
芦澤さん:私たちはSTARTUP HOKKAIDOさんに声をかけてもらい、このプログラムを教えていただきました。冬季の北海道には海外からのスキー客が大勢やってきますが、空港や駅で大きなスキーのオールインワンバッグをガラガラ引っ張って移動している方が多く、あれを発送できたら、手ぶらで観光できるし公共交通機関の混雑も緩和されるんじゃないかと考えたのが始まりです。
—ルスツリゾートさんは、どのような理由で実証実験を受け入れたのですか。
岩瀬さん:私は「海外への荷物の発送サービスを手掛けるスタートアップがあるので実証実験に協力してもらえないか」という問い合わせを道庁経由でいただきました。実は我々もお客様の忘れ物を海外に発送することがあるのですが、書類も料金決済も非常に手間がかかるんです。そうした手続きが端末で簡単にできるのなら、お客様へのサービス向上につながるのでは、と協力させてもらうことにしました。
ホテルのデリバリーコーナーに端末を設置
—実証実験はどのように進めたのでしょうか。
芦澤さん:LICHの事務局を担っているデロイトトーマツさんが間に入って、ルスツリゾートさんとスケジュールや進め方を調整してくださいました。大変ありがたかったです。
岩瀬さん:ホテル1階のデリバリーコーナーにヤマト運輸さんのカウンターがあって、国内の発送や受け取りをしているので、ヤマトさんに事前に許可をいただき、一角にShipMateさんの 「ShipStation」を置いて12月10日から運用を始めました。
芦澤さん:ルスツリゾートを利用するお客様への認知度をあげるため、岩瀬さんが「ここならいいんじゃないか」と、館内にあるスキースクールやカフェテリアのそばにポスターを貼らせてくれたり、チラシを置かせてくれたりと、力になってくださいました。

▲ホテル1階デリバリーセンターの一角に端末ShipStationを設置。
—設置してから2カ月半ですが、利用状況はどうでしょうか。
芦澤さん:2月20日までの11週間でHPへの訪問数は297件、実際に端末を触りに来た方は、47名、うち成約数が12件。コンバージョン率(端末で成約に至った割合)は25%になります。(取材後追記:3月31日時点で、成約は18件に増えています。)
岩瀬さん:当初はもっと利用があるかと予想していましたが、告知不足というか、サービスに気づかない人が多かったのかもしれません。
芦澤さん:もしかしたら旅前のプランの段階でのプロモーションが必要なのかもしれません。お客様はスキーの荷物があることを前提に行程を考えますよね。ルスツリゾートでは荷物を自国に送れて、帰りは手ぶらで日本を観光できる、と事前に分かれば、都市間を周遊するなど、また違った旅程が組めるはずです。
国境を越える不安を解消。海外の利用者に寄り添うカスタマーサポート構築
—実際に利用された方は、どのような方ですか。
小野さん:利用されたお客様の多くはオーストラリアの方です。ほかに香港、カナダ、アメリカ、デンマーク、シンガポール、中国、タイと、お客様の国籍はさまざまでした。
岩瀬さん:例年12月はアジア圏の方、1月にはオーストラリアの方が多く、春節には中国の方が増えます。気候の変化のせいか、水分の少ないパウダースノーはもう北海道とコロラドにしかないんじゃないかといわれていて、今は世界中からスキーヤーやスノーボーダーが集まります。

▲ShipStationの端末は多言語対応。書類作成から発送手続き、決済までワンストップで可能です。
—端末の操作で戸惑うようなケースはなかったのですか。
吉岡さん:今回の実証実験では、ShipStationの無人運用に初めて取り組みました。お客様への基本的なカスタマーサポート対応は遠隔で行うのに加え、週に1~2回、私か小野が現場に足を運んで、お客様からの問い合わせに直接対応するオペレーションを構築しました。しかし、初期段階では、端末の操作方法が分からず困ってしまったお客様が、現場にいらっしゃるヤマト運輸のスタッフ様に直接尋ねてしまうという事象が発生しました。本来、配送スタッフ様がシステム操作まで回答することは難しいため、現場に過度な負担をかけないよう、サポートへの導線を根本から引き直しました。
芦澤さん:海外配送は日数を要するため、荷物の所在に不安を感じるお客様も少なくありません。そこで、配送ステータスの透明性を高めるため、状況に応じたきめ細やかな通知体制を構築しました。例えば、通関手続きで時間を要する時期には、現地の状況を先回りして個別メッセージで共有するなど、お客様と密なコミュニケーションを徹底しています。その結果、配送の進捗報告に対して感謝のメッセージをいただくなど、単なる物流の枠を超えた深い信頼関係を築くことができました。こうした双方向のやり取りが、サービスへの高い満足度へと繋がったかなと思います。
吉岡さん:通常、海外配送には2〜3週間を要しますが、その期間中にお客様が抱く「荷物の所在への不安」をいかに払拭するかが重要だと考えています。そのため、配送ステータスに変化がある際はもちろん、意識的に先回りしてご連絡を差し上げるよう努めました。こうした細やかな情報のアップデートが、最終的な顧客満足度を大きく左右すると確信しています。
—そうしたお客様とのコミュニケーションは当初から想定していたんでしょうか。
芦澤さん:実証実験しながらどんどん付け足していった感じです。
吉岡さん:元々、利用状況に応じて自動メールを送信する仕組みは備わっていましたが、それだけでは不十分だと感じました。そこで、自動化された機能に加え、私や小野が直接カスタマーサポートとして柔軟に応対できる「有人ハイブリッド体制」を構築しました。
芦澤さん:問い合わせ窓口も当初はメールだけだったんですが、外国の人がよく使っているWhatsAppというチャットアプリを使えたら便利なんじゃないかと、端末にチャットができる機能をつけました。そうしたらやっぱり WhatsAppからの問い合わせが圧倒的に増えました。そういった微調整をしながら、実証実験を進めさせていただきました。

▲ポスターをお客様の動線上にスタンドで掲示。
価格設定など、さまざまな課題が明らかに
—コミュニケーションのほかに、どのような課題が見つかりましたか。
芦澤さん:価格については、事業本格化に向けてさらなる検討が必要だという学びがありました。今回は実証実験として価格を設定しましたが、スキー用品の国際配送には特有の難しさがありました。 送料は重量や容積に基づいて算出されますが、当初「集荷された状態のまま配送可能」と考えていたオールインワンバッグも、実際には配送会社様の規約により、厳重な梱包や緩衝材での保護が不可欠でした。また、わずかなサイズの違いが送料に大きく影響するため、現場での適切な梱包判断が収益性に直結することを痛感しました。
また、期間中に米国の関税ルールが変更されるなど、急遽DHLへ配送キャリアを切り替える柔軟な対応も求められました。こうした予測困難なコスト変動をいかに管理するか、実地での貴重なデータを得ることができました。
吉岡さん:お客様にとっての「納得感のある価格」と、事業者としての「適正な利益」、そして導入いただくホテル様への「手数料還元」。この三者のバランスを保ち、持続可能なビジネスモデルとして成立させることの難しさと重要性を、身をもって実感しました。今回の学びを、次フェーズでのスキーム構築に活かしていきたいと考えています。

▲チェックアウトの際にスキーのオールインワンバッグを預かり、お客様の母国へ発送します。
—実証実験はいつまで?
岩瀬さん:実証実験は2月末までの予定だったんですが、我々のスキー営業は3月末までありますし、ルスツにはイギリスから100人近いインストラクターが来ているので、彼らが帰国するときにもニーズがあるかもしれないと、3月末まで延長いただきました。
吉岡さん:「来年もルスツに来るから、その時もぜひ利用したい」と、再利用を希望されるオーストラリアのお客様もいらっしゃいました。その方は「メルボルンからルスツへ送り、帰りもルスツからメルボルンへ送る」という往復配送ができないか、というお問い合わせでしたが、現在は日本からの発送(片道)のみの対応となっています。こうしたお声から、単なる発送代行を超えた、より幅広いニーズがあることを改めて実感しました。
芦澤さん:また、すでに帰国された海外のお客様から、客室の落とし物(お子様のスマホ)を自宅へ届けてほしいと相談を受けたこともありました。海外への落とし物発送は、送り状作成や関税確認など、ホテル側で対応するには非常に手間がかかります。しかし、弊社のシステムを活用することでスムーズに発送を完了でき、宿泊施設が抱える「帰国後の落とし物対応」という課題を解決するツールとしても手応えを感じた出来事でした。

▲2月24日に赤れんが庁舎で行われた「Local Innovation Challenge HOKKAIDO 2025 Demoday」で実証実験について報告しました。
国際発送の敷居を低くするために
—まだ実証実験の最中ですが、今後の展開はどのようにお考えですか?
岩瀬さん:スキーは基本的に富裕層のスポーツですから、荷物が煩わしいから送りたいという需要はあると思います。送れる荷物かどうか一つひとつチェックして、申請書類を出して、とハードルが高かった手続きが、端末に打ち込むだけで支払いまで済んでしまうのですから、お客様にはメリットが大きい。ただサービスとして継続していくには、お互いに利益が出なければなりませんし、そのあたりの精査は必要だと思います。
芦澤さん:端末の設置とは別に、アプリの開発も必要かなと思いました。お部屋でパッキングしながらモバイルで入力できれば、より使いやすくなりますよね。
岩瀬さん:スキーだけではなく、お土産なども送れることが周知できれば、さらにニーズも高まるのではないでしょうか。ニセコなど宿泊施設が点在しているところなら、アプリで受付して、配送業者さんがホテルを巡回する出張回収があると、費用は別にかかるとしても、利用者は増えるかもしれません。
芦澤さん:私たちのサービスは将来的にD2C(消費者への直接販売)を活性化し、外貨を稼ぐインフラになれるのでは、と考えています。海外観光客が北海道内で食べたものをもう一度ほしいとなったとき、私たちは越境ECの国際配送をお手伝いできますし、一度送れば購入履歴を参考にリコメンドもできます。これまでは海外にモノを販売するとなるとコンテナレベルで考えなければなりませんでしたが、小さな店が海外に道産品を売って外貨を稼ぐことも可能になるはずです。

▲芦澤さんがCEO を務めるShipMate株式会社は、週刊東洋経済の「すごいベンチャー100」にも選出され、注目を集めています(2025年10月)。
—スタートアップと企業の共創については、どのようにお考えですか? 促進させるためには何が必要でしょうか。
芦澤さん:私達は本当に人に恵まれていて、今回も岩瀬さんはじめホテルの皆さん、ヤマト運輸さんやDHLさんなど配送業者にも大変お世話になりました。まだ走り出したばかりのスタートアップなので、皆さんの理解と協力がなければ前に進みません。オープンイノベーションというと、社会にインパクトを与える壮大なことをイメージしがちですが、私は、一人の力ではできないことをみんなで協力しながらつくっていくことじゃないかな、と。そういう気持ちでやっています。
岩瀬さん:基本的に、ホテル内に外部の企業様のサービスを入れるときは、利益が上がるものでなければなりません。他社の広告も館内では一切掲示できないルールになっています。ただし今回は海外発送がお客様へのサービス向上につながると判断して実証実験を受け入れました。実績ができれば来年は客室にチラシを入れてみようとか、別の告知方法も検討できるかなと思います。
芦澤さん:私の夫はノルウェー人で、雪が好きで、食事がおいしいという理由だけで、6年前に知り合いのいない北海道に二人で移住してきました。ShipMateがこうして取り上げてもらえるのも、北海道だからこそと感じることもあります。これからも北海道発のスタートアップとして頑張っていきますので、よろしくお願いします。
今回はリゾートからのスキーの海外配送に的を絞って実証実験を行ったShipMate株式会社。今後はホテルや観光地へ端末「ShipStation」の導入を進める一方、個人や中小EC事業者向けの国際発送支援サービスも広げていく考えです。
(本共創事例のメンバー)
■ShipMate株式会社
■加森観光株式会社 ルスツリゾート
(お問い合わせ)
■STARTUP HOKKAIDO実行委員会
HOP(Hokkaido Open Platform)事務局【所属:NTT東日本-北海道】
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