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2023年4月10日 14:00

【TECH BEAT Shizuoka 2022】基調講演③「建設DXの未来」

全体公開

今回は基調講演として「建設DXの未来」というテーマで、静岡県の建設会社3社の代表取締役3名との対談形式での場を用意しました。

今回お話を伺ったのは以下の方々です。


■登壇者

・加和太建設株式会社 代表取締役 河田亮一氏

・木内建設株式会社 代表取締役社長 木内藤丈氏

・須山建設株式会社 代表取締役社長 須山雄造氏


■モデレ-タ-

・株式会社HEART CATCH 代表取締役 西村真里子氏

・トレジャーデータ株式会社 取締役 堀内健后氏


3社は建設DXのオンラインコミュニティ「ON-SITE X」を立ち上げ、地方の建設会社とスタートアップのオンラインマッチングを行っています。

「On-site X」で建設業界のDXどう進んでいくのか、建設業界を引っ張る3名に詳しく伺います。



「On-site X」を立ち上げるに至った2つの重要課題

河田  建設DXのオンラインコミュニティ『On-site X』は、チャレンジングな地方建設会社とスタートアップのオンラインのマッチングコミュニティです。このコミュニティが実現したいことは、スタートアップの力で建設業の課題を解決し、新しい建設業を創造することです。建設DXによって、我々の生産性が高まるだけではなく、その先、我々の業界が新しい産業になっていくところまで目指したい、と思っています。この新しい建設業がどんな産業なのか、たぶん、それぞれ夢や考えがあると思います。



このオンラインコミュニティの設立に至った背景は、(建設業は、)山積する課題がすごくある業界というのが一つ。そしてもう一つは、国内第2位の市場規模があるということです。この2つがあるのに、スタートアップの参入が非常に少ないということが課題だと感じています。

1つずつ、その課題と市場規模とスタートアップの少なさについて説明していきたいと思います。課題は、担い手不足、生産性の向上、経済循環の3つが大きなテーマだと思っています。担い手不足で言うと、やはり業界従事者の方々が高齢化しています。そんな中で、若手の新規就労者が減っており、地方の建設業の平均値ですけど、せっかく入った若手も3年以内に35%以上が離職してしまうという状況があります。担い手不足というのは業界の本当に深刻な問題だと捉えています。

2つ目が生産性の向上です。2024年からは建設業も完全週休2日がスタートしていきます。さらに、昨今の資材費の高騰、気候変動、お客様や利用者のデザインに対する志向が高まっていること、環境への配慮にもっと取り組んでいかなければいけない中で、生産性の向上は必須だ、と思っています。

最後ですが、我々の仕事は、その地域が良くならないと必要なくなる産業です。我々が生み出した利益がやはり地域に循環していく。そのようなところまでやっていかなければいけない、というふうに考えています。

こういった課題を解決していくために、DXが必要だと感じています。市場規模で言うと、自動車業界が1番ですが、国内第2位の市場規模がある中で、建設業向けにサービスを展開している会社がどの程度あるかというと…


西村  けっこうありますね。


河田  そうですね。これは約130ぐらいですね。ただ、国内第4位の市場の不動産で言うと446です。


堀内  全然違いますね。


河田  そうです。課題は山ほどあるのに、そこに取り組んでくれるスタートアップが少ない、というのが一目瞭然です。


堀内  ちなみに、私がいるデジタルマーケティングの領域には、世界で10,000社のスタートアップがいます。


河田  落合さん(落合陽一氏)も、建設業の変革にはスタートアップが必要だという認識をお持ちでした。まさに我々が感じていることです。スタートアップが少ない理由の1つは、スタートアップ側に我々の課題をしっかり提供できていないことだと思っています。良くも悪くも頑張っちゃうというか、マンパワーで頑張る業界なので、色んな不合理なこともやり遂げてしまう。これでは、課題が顕在化してきません。あと、やっぱり言葉です。スタートアップ側に伝える上手な表現ができない、ということもあると思っています。

一方、スタートアップ側が建設業にサービス展開しようと思った時の課題は、我々側がスタートアップとどう付き合えば良いのか分からないということです。サービスを、例えば企画段階のものをいきなり評価とか評論してしまったり、あとは時間軸が全然違ったり、マネタイズの仕方が全然違うところがあります。こういう価値観が違うことで、なかなかスタートアップ側が入りづらい状況なんだろう、と感じています。



西村  堀内さん、どうですか?スタートアップの視点として。建設業ってなかなか入りづらい領域と思いますか?


堀内  もちろん、建設業に限らず、業界ごとに、必ず特殊な部分はあると思います。この課題を生み出している理由の一つに、建設業の方たちがスタートアップに転職してこないことがあるかもしれないです。

例えば、銀行だったら、銀行業界に長年務めていた方がスタートアップ業界に入ってくるという人的な交流があります。業界知識をスタートアップ側が吸収し、銀行の方たちとビジネスの話をすると、話が通じやすいです。

今日集まっているお三方に、スタートアップに色々課題をレクチャーしていただくと、スタートアップ側から、「こういうふうにしたほうが良いのでは?」というアイディアが出てくると思います。それが、今回のこのコミュニティにすごく期待できることだと思っています。


河田  建設業の課題を可視化・整理していくことと、スタートアップ側の建設業の期待を整理していくこと、両方やりたいと思っています。

特にスタートアップ側で言うと、これからサービスを考えていきたいフェーズなのか、サービステストしたいフェーズなのか、ユーザー獲得したいフェーズなのか、スケールしていきたいフェーズなのかをちゃんと前さばきした上で、オンラインのマッチングを図っていきたいと思っています。


この立ち上げをお二人(木内氏、須山氏)と一緒にスタートします。我々三社でだいたい売上規模が1,000億でスタートできるのも、スタートアップからすると魅力だと思います。既に、構想段階からいくつかのスタートアップと一緒になってサービス開発をやらせていただいています。



西村  もうすでに始まっているものもあるのですね。


河田  そうですね。その辺も、木内さんがやられているので、ぜひ聞いてもらえればと思います。なかなか、ご自身の自慢をするのは苦手だと思うので、私からちょっと紹介したいんですけど。3社で売上規模1,000億、と言いましたけど、ほとんど木内さんです。県内ナンバーワンの建設会社です。全国的に見てもトップクラスの売上規模を持つ地方ゼネコンで、木内さん自身、本当に強さと優しさと遊び心と勤勉さを持ち合わせて、現場の掌握力もすごい方なので、スタートアップの方からしても、やっぱり木内さんに話すと、事をどんどん運んでいく、みたいなことは起きるんだろうな、と思います。



河田  もう一方、須山さんです。須山さん自身は変わったご経歴というか、建設業出身ではなく、野村総研NRIでシステム関係を中心にお仕事をされていたので、まさに先ほど言った、システム側のことを分かっている方が建設業に来ている。だから、スタートアップの方に伝える上でも、きちっと言葉を持っている方だと思っています。



西村  せっかくなので、木内さんと須山さんから、河田さんのご紹介をしていただけますか?


木内  だいぶプライベートも含めて仲良くさせていただいています。本当にありがたいと思うのは、この静岡というエリアの中で、同じ業界の中でこういう方がいらっしゃるのは本当にラッキーだと思っています。ゼロからイチを創り出す能力、当然そこは素晴らしいです。一番素晴らしいのは、自社だけ良くなればいい、という考え方がなくて、業界全体、三島や静岡、エリア全体をどうやって底上げしようか、といつも考えていらっしゃるので、私も須山さんも今回、河田さんの前向きなエネルギーに巻き込まれて、参加をしたような形なので、本当にいつも感謝をしております。


西村  須山さんからも、河田さんのご紹介をいただけますか?


須山  河田さんは三島を中心に展開をされて、私、浜松なので、実は同じ静岡県でも、かなり距離があって、きちんとこうやって話すようになったのはこの1年ぐらいです。ただ、河田さんの取り組みというのは本当に浜松のほうにも色んな形で話が伝わってきています。とにかく新しいことにどんどん挑戦していくし、従来の建設会社の枠を超えて、新しいことにどんどん入っていく。遠くからかなり刺激を受けていました。今回、こういう形でご縁あって一緒に登壇させてもらっているのは、私も嬉しく思っています。



なぜ3社は競合相手とオンラインコミュニティを結成したのか

堀内  一見すると、県内で同じ業界にいらっしゃるので、「競合なんじゃないですか?戦っているのではないですか?」と思っていました。でも静岡は広いところなので、今まさにお三方がそれぞれのご紹介をしてくださったみたいに、一緒にやれるっていうところが、今日、皆さんに集まっていただいた理由だと思っています。そのあたりはどうですか?


河田  やっぱり、先ほどもありましたように、スタートアップ側に、我々の課題をちゃんと提供していくということをしようとすると、けっこう全部オープンにしなきゃいけないわけじゃないですか。これができる関係性も大事だと思っています。それはやっぱり、決してマーケットがかぶらないわけではないですけど、圧倒的シェアとその下にいるぐらいなので、そういう中で課題をオープンにできる関係性、これは大事だと思っています。


堀内  何か弱みを見せるというのは、なかなか難しいのかなと思いきや、そこをやっていただけるというのは、我々スタートアップからすると、非常にありがたいことだと思っています。


木内  須山さんのご紹介があれば少し触れると思いますが、須山建設さんは、県内の中では、BIMやCIMの取り組みを先行されている部分があるので、実務の情報交換をけっこうオ-プンにやっていました。


木内  あとは、本当にこの3社だったらやります、と話を最初にしたことを覚えています。


西村  河田社長、すいません。プレゼンの途中で他己紹介に入ってしまいました。


河田  ちょっと最後、説明自体はあと数枚で終わります。立ち上げは3社でやっていますけども、最終的には、最大150社ぐらいまで増やしていきたいと思っています。全体の売上規模が3,000億から5,000億円ぐらいになると中堅ゼネコンと同じぐらいの規模感になるので、それぐらいのコミュニティにしていきたい、と思っています。あとは、不動産の開発会社の方や投資家、それから教育機関の方にも入ってもらえると、よりコミュニティの質が上がってくる、と思っています。当然、サービス開発のところで課題提供や社内で新しいサービスを使っていくこともしていきますが、スタートアップの方々に業界に入ってきてもらい共に成長していきたい、という思いがあります。お金の出し手になるところまで、一緒にこのコミュニティの中の、全社とはいかないですけど作っていきたい、と考えています。ということで、静岡から始まる日本の建設業の変革をやっていきますので応援をよろしくお願いいたします。


建設業とスタートアップ企業の連携で求められることとは?

西村  もうすでにスタートアップの方々と動きがあるということでした。もしよろしければ、木内さんから伺ってもよろしいですか?


木内  我々は、まだトライアルを始めたばかりですが、今回、この枠組の中で、ブリングアウト(株式会社ブリングアウト)というスタートアップと2つの物件でトライアルをしています。

1つは営業の議事録の書き起こしをやっています。もう1つが、社員から「設計定例会議でもブリングアウトの技術が使えないか?」という提案が上がってきてトライアルを始めたところです。

非常に面白かったのが、今までの定例会議における問題点や課題が自発的に社員から出てきて、それをブリングアウトさんに聞く側でいていただくことで、非常に前向きに会議の在り方を見つめ直せるきっかけになりました。

まさに先ほど河田さんがおっしゃっていた課題の中で、我々が問題やボトルネックの可視化・言語化ができていない部分が多いな、と感じました。

当たり前だと思って時間をかけてやっていたボトルネックは、やはりスタートアップの方に入っていただくと、これからどんどん紐解けるのではないか、と思っています。トライアルを始めたばかりなので、あまり大きなことは言えませんが、始めたばかりでも非常に大きな気づきがあったので、ありがたいと思っています。


西村  スタートアップと協業をすることは、全く新しい体験じゃないですか。皆様は大丈夫かもしれないですけど、社員の方や関係者の方々に、このマインドセットを変えていくためにどのようにしていらっしゃるのか、もしくはしていこうとしていらっしゃるか、伺ってもよろしいですか?


河田  すごく難しいな、と感じながらやっています。弊社のケ-スで言うと、実は自社でSaaS、クラウドサービスを立ち上げています。スタートアップの経験を持った人間がいると、ちゃんと翻訳しながら会話する。頑張っていることを認めた上で、「もっとやりやすい方法ってなかったんでしたっけ?」というようなコミュニケーションを取っていく。

つまり、現場の頑張りをちゃんとリスペクトした上で話をしていかないと、全然違うところに行っちゃうので、そこはすごく難しい、と思っています。

でも、それを大事にしながら、スタートアップの方との会議の場を設けていくと、「実はここ、大変なんですよ」みたいなことがポロッと出てくることがあると感じます。


西村  須山社長は、スタートアップとの協業に関して、社員の方々の意識をどのように向けていこうとしていらっしゃるか、教えていただいてよろしいですか?


須山  スタートアップを特別扱いしない、ということは感じています。あくまでも、普通のいち会社、いちサービスとして便利なものは使っていく、というスタンスで、私自身もいますし、うちの社員も同じような見方だと思います。本当に便利なものは、やっぱり自然に定着していくし、そうでなければ、自然と使われなくなる。当たり前ですけど、そういったものだと思っています。やっぱりうちの場合は、各社員、それぞれの部署やグループ会社のそれぞれの持ち場で、良いものはどんどん自分の判断で使っていいよ、と言っています。分譲マンションの大規模改修時に、入居者とコミュニケーションを取る専用のアプリがあるらしいんです。改修業者が分譲マンションの入居者と工事中にやり取りができるサービスです。これは、社員が自分で見つけてきました。初めてなので、それが定着するかどうかは分からないですが、会社としてその姿勢を奨励していくことが大事だと思っています。


「On-site X」における2つの構想

西村  先ほど、『On-site X』でいくつかプログラムを作っていくという資料がありました。『On-site X』で、スタートアップにどのようなプログラムを提供していこうとしているのか。その構想を教えていただけますか?


河田  2つのことをやろうとしています。建設業を増やしていくこととスタートアップを開拓していくことが重要で、そのためには、まず我々の課題を整理しなければいけない、と思っています。それが一番難易度が高い課題だと思っています。

この課題の整理がどういうふうにしたらできるのか、という仮説を作っています。それは、スタートアップの方とのミ-ティングをたくさんやってみることで課題が抽出できる、という仮説を持っています。最初は、我々のコミュニティで言うと、50から100社ぐらいスタートアップの方と現場をぶつけてみて、その中で、可能性があるサ-ビスや我々の課題が整理できてくるのではないか、というふうに思っています。



堀内  須山建設は、社員がどんどん(知の探索を)しています。スタートアップのサービスが便利であれば定着するし、便利でなければ使われないから、次のツールを探す、という活動になっていく時に、スタートアップってやっぱり皆さんの課題を解決して、それをさらにスケールさせて、ビジネスを広げていくっていうビジネスモデルでやっているので、課題ありきです。その課題をテクノロジーで解決するというスタンスだから、その課題とテクノロジーを見ると、ヒントになるというのは大いにあると思います。

河田さんのすごく良い、面白い事例をお伺いしていると、建設業界をターゲットにしていないが、たまたま面白いスタートアップを見つけて、話を聞いてみたら、このシーンで使える、と言って導入したケースがあります。それ以上に、プロダクトマ-ケットフィットの部分を手伝っていただける、いわゆるファーストカスタマーです。これをどんどんやっていただける、というところがこのコミュニティの強みです。しかもまず最初から3社います。


スタートアップにとってのプロダクトマーケットフィットになる

西村  もう既にメンバーがいるというのは強いと思っています。オンラインのコミュニティで100社ぐらいどんどん会っていくことで、オフラインの活用も大きくなると考えています。

皆様はオフラインに強かった企業だと思いますが、オンラインとオフラインの活用でスタートアップをどのように活用できるか、新しい建設業の在り方をどのように考えているのかを伺いたいと思います。木内さん、よろしいでしょうか?オンラインとオフラインの融合。この『On-site X』でもいいですし、建設業全体でも大丈夫です。


木内  オンラインとオフラインをどう考えるのかというのは、生産性を上げる中で、非常に重要なヒントになると思っています。

我々のような中小企業のオーナー企業は、トライアルや新しい技術の取り組みの判断がしやすいことがメリットとしてあります。スモールスタートを大事にしていて、けっこうそういうものに率先して取り組んでくれる自立的、自発的な社員はある程度増えてきています。スモールスタートの中で、多少成果が出てきますが、問題もあります。かなり専門性が高い課題が出た時に、会社の中だと、なかなか課題が解決できません。「ここまでやってすごいな」という話で終わってしまいます。スモールスタートの先に、メンバーコミュニケーションやネットワーキングで、もっと先進的なことをやっている同業他社の方やスタートアップの方に、専門性の高い相談が外部にできるので、これはすぐに成果が出ると思っています。


西村  ありがとうございます。須山さんからも伺ってよろしいでしょうか? 


須山  建設業界に関して言うと、移動時間が仕事の大きな部分を占めています。現場まで片道1時間、2時間はザラです。生産性を上げる時に、いかに移動時間を合理化していくか、というのは大事になっていると思っています。

これまでは、オンラインという手段がなかったので、とにかく現場に行ってから考える必要がありました。もちろん現場は大事ですが、この2年間で、オンラインコミュニケーションが非常に定着したことで、「本当に現場に行かなきゃいけないの?」ということが社内でも議論になりましたね。たぶん半分ぐらいはオンラインで解決できます。本当に行かなきゃいけない時は行って、そこでしっかり現場で話す。そこの使い分けはかなり定着してきましたし、それによる生産性の向上はすごく大きいと感じています。やっぱりこの2年間というのは我々にとってはすごく大きな2年だったなというのを感じています。



西村  ありがとうございます。河田社長もお願いします。


河田  先ほど言った、建設業をネットワーク化することで言うと、各拠点にいる本当に際立ったチャレンジングな建設会社をピックアップして、コミュニティに入れられるというのはオンラインの良さだと思いますし、スタートアップの方にとっても、すごく時間が大事な中で、長距離を何社も移動しながら面談しなくても良いので、コミュニティ運営においては、すごく大事だと思っています。そこで、良いマッチングが起きれば、現場に行って、現場を見ながらやっていくことが重要だと思うんですけど、それをうまく使える時代というか、環境になったというのもあります。ようやく、たくさんの地方の建設業がいるコミュニティができるというのは、このオンラインの良さだと思っています。


西村  (『On-site X』を)この静岡から東・中・西で始めますが、静岡という枠を超えて、どんどん建設業の仲間も増えていっていいわけですよね。


河田  そうですね。このコミュニティをやる、と昨日リリースを出させていただきましたが、その時点で県外の数社からお問い合わせがありました。元々、弊社で言うと、自社のサービスを売っている関係で、全国に本当にチャレンジングな建設会社の方との繋がりもあります。そういう方々も入っていただけると良いなと思っています。


西村  堀内さん、嬉しいですよね。私たち、“TECH BEAT Shizuoka”を2019年からやらせていただいている中で、スタートアップと県内企業のマッチング事例も出てきています。今回、建設業の横の繋がりで新しい動きができていることは、すごく嬉しいニュースだと思っています。

スタートアップの視点で、建設DXがこうあって欲しい、静岡発日本、もしくは世界へみたいな形にする時に、堀内さんとしてどういうことを期待しますか?


堀内   “TECH BEAT Shizuoka”を立ち上げた時に、静岡に集まる形でやりましたが、スペースに限りがあるので、建設業界の方たちに特化したスタートアップだけを集める、というのは難しかったです。

河田さんにヒアリングしていく中で、「こういうスタートアップもあったらいい」、「こういうところを紹介して欲しい」と色々要望をいただきました。

自分の会社には、こういうスタートアップが欲しいんだ、と言っていただいたので、“TECH BEAT Shizuoka”発で建設に特化したスタートアップとのコミュニティを作ることが決まりました。

成果が出れば、全然違う業界も“TECH BEAT Shizuoka”で発表をするができるし、すごくシナジーがあると思っています。なので、そういうことをすごく期待しています。せっかく、年に最低一度は、こうやって皆で集まるわけなので、三社から、それぞれ3つぐらい事例がバンバンバンと出ることを期待しています。


海外とも繋がるエコシステムの形成も視野に入れている

西村  ちなみに、建設業界の方々の知識共有のためのグローバルなイベントや学会など、ありますか? 


木内  なかなか思いつかないですね。


堀内  そうですか。やっぱり、エコシステム同士の繋がり。会社同士の繋がりだけじゃなくて、エコシステムを作ったからこそ、エコシステム同士の繋がりとかもできたら良いですよね。


須山  結果的に使っているサービスだったり、ソフトウェアが海外製なので、深掘りしていくと、海外の事例だったり、海外のマニュアルなんかに繋がるというのは、現場レベルであるとは聞いています。コミュニティというよりは、あくまでもサービスやソフトウェアを使いこなすためにどうするかという問題が先にあって、結果として海外の事例と繋がるというのは出てくるかと思います。


西村  朝の基調講演で、入山教授から「これからの時代は理想を語っていって欲しい」という話がありました。理想だけではなくて、『On-site X』でやったことを理想の世界で実現するために、この3社の取り組みというものを国内だけではなく、CESや海外のカンファレンスで話をしていただくことも目指して欲しいと思います。


堀内  3社と取り組んだスタートアップが世界に出ていくのが良いかもしれないですね。

  3社が使い倒したスタートアップは、世界の他の建設現場、東南アジアで使えますとか、そういうのが出てくるのも良いかもしれないですね。


河田  それができるのが理想だと思います。世界を見ると、スタートアップが生まれ育つエコシステムがあるわけで、そこを我々の業界に特化したコミュニティとしてベンチマークして、さらにそことコミュニティ同士が繋がっていければ、各国によって、多少やり方が違っても、エコシステムを経由して繋がれることで、スタートアップがもっと世界に向けてスケールアップしていくことはあるんだろうな、と思いました。


堀内  弱い繋がりは、探索にすごく効果的です。弱い繋がりは、情報交換ぐらいの繋がりです。一社、一社、全部海外と繋がってカンファレンスをやるのはすごく大変なので、それがコミュニティになっていれば、海外のスタートアップもたぶん日本に参入しやすく、どんどん入ってくると思います。そういうことはどんどん発信しても良いかもしれないですね。


西村  河田さん、それなら、先ほどの『On-site X』でやるいくつかの活動の一つに、海外に発信するとか、海外のコミュニティと繋がるなど、スタートアップの皆さんが世界にも行ける仕組みとして、どうでしょう。


河田  スタートアップの方にとっても良いし、我々のコミュニティの成功確率を高めるためにも、そういうコミュニティと繋がって、学ぶべきことをちゃんと学ぶというのはすごく大事だなと思いますね。


3社の代表が目指す地域活性化への道筋

西村  さて、皆様がこれから目指す世界の中で、この『On-site X』とそれぞれの道の中で地域の活性化をどのようにしていきたいと思っていらっしゃるか。その夢というものを伺わせていただきたいと思います。


河田  一番は地方の建設業の在り方を変えて、地域にもっと関わって、地域を良くして、活性化する地方がたくさん増えて、日本が良くなることを目指しています。直近で言うと、やっぱり我々、生産性を向上して強くなることで、静岡県東部、特に三島とか熱海とかですかね。あの辺りを本当にスパイキーな街にしていくと。


西村  なるほど。良いですね、スパイキーな街。


河田  今日、入山先生が言っていた、まさにスパイキーな街で、日本一チャレンジできる街、みたいなものを作っていくことで、街の活力を生んでいきたいと思っています。そのために、我々自身がスタートアップの力で変革を遂げていく。かつ、スタートアップがそこに来るとチャレンジできる、という世界を作っていけると良いなと思っています。


須山  浜松は、市長がかなりリーダーシップを取って、こういう街にしていくぞというのを掲げていたり、非常に素晴らしい企業がたくさんあって、色々な形で業態、新しいものを立ち上げたりしながら設備投資をどんどんされています。そういった中で、地元の建設会社として、浜松市役所や浜松に拠点を持つ大きな素晴らしい会社がやりたいことを僕らがどうやって支えて、実現をサポ-トしていくかということが建設会社の役割だと思います。その時に、地元にきちんとした建設の技術者が集積していて、ちゃんと問いかけに対して専門家として打ち返していけるかどうかが問われていると思っています。頼りになる専門家集団であり続けることがすごく大事だと思います。


木内  課題に出ていた担い手の不足であったりとか、高齢化だったり、就労者の不足というのが深刻です。我々もそうですし、我々のパートナーである専門業者、協力会社の皆さんは、かなりその感が強く、担い手の不足や高齢化の進んでいくスピードは地方のほうが圧倒的に早いです。

昨日もサウナの中で河田さんと話をしていましたが、我々はその中で生産性の向上の先を考えていくことが、地域の方がより大事だと思っています。皆さんに河田さんのことを知っていただくには、三島のオフィスに行っていただいて、サウナに入っていただくのが、たぶん一番河田さんという経営者を理解できると思います。本当に、我々も建設の生産性を高めた次に、会社自体をどの方向に向けていくかということをこのプラットフォームの中で話ができればありがたいと思っています。


五感を刺激することで新しいビジネスチャンスが生まれる


西村  素晴らしい。ちなみに、河田社長。なぜサウナを作られたんですか?それはやっぱり、コミュニティの起爆剤になるため?


河田  そうです、そうです。さっき入山先生がおっしゃっていた…なんでしたっけ?


西村  五感が大事。


河田  五感が大事。五感を刺激すると。それによる関係性を深めていくと。その先に、新しいビジネスがある、ということを、その場で起きたらいいなということです。


堀内  会議室の中で縮こまってディスカッションしていて、どうしても批判的になったり、アイデアが思い浮かばない時に、サウナに入る経営者、焚き火をする経営者はたくさんいらっしゃいます。


西村  スタートアップとの協業という話で、違う軸でこの取り組みを語るとすると、オープンイノベーションだと思います。ここから先、たぶんオープンイノベーションでデータを軸に、企業やスタートアップとコミュニケーションできるようになると、今まで繋がりがなかった産業の企業とも繋がれるようになる、というのがオープンイノベーションの理想形と思った時に、皆さんがこのオープンイノベーションが進んだ先に、建設業としてここと組めたら、よりお客さんが喜んでくれるのに、もしくは家族が喜んでくれるのに、自分が嬉しいかも、というような繋がりたい産業、企業はありますか?


堀内  街づくりだから、やっぱり全部じゃないですかね。住んでいらっしゃる皆さんが、どう連携するともっと便利になって住みやすいのにとか、それがあったら移住してもいいよとか、そういう意見をこのコミュニティで捉えていくのも良いかもしれないですね。


西村  せっかくコミュニティでディスカッションするのであれば、やっぱり家の中で4Dシネマと同じぐらいのクオリティのやつを見たい、のようなことを言ってみたら、何か新しいソリューションが出てくるかもしれませんね。


河田  ものづくりの領域で我々、色々なスタートアップの方々の知見を貯めて、データを貯めていった先にどうなるかというところまで、なかなか想像できません。ですが、全然違うところと組めたら面白いと思うと、エンターテイメントやそういう業界と組むことで、今のメタバースの世界に対して、実でモノを作っている我々が、何かすごい仕掛けができる可能性はあると思います。

つまり、指をくわえてメタバースの世界に人が行くのを見ているということではない、と思いました。


西村  今日の午前中のセッションで、東京大学で特任教授をされている豊田さんがBIMのデータを建設だけに閉じずに、ゲームエンジンの中に入れるという話をしていました。


堀内  Unityとかに点群データを入れてましたよね。


西村  例えて言うならば、家がゲームエンジン上にもある状況です。ゲームエンジン上に家があるということは、ある意味メタバースみたいな空間の中で、ゾンビが出てくるようなゲームをしてもいいと。だから、自分の家がデジタル上だとゾンビハウスになってもいいぐらいのデータポータビリティを実現し始めている方もいます。そういう方とディスカッションすることによって、実は静岡県の家や企業の施設はすべてゲームエンジン上で皆が遊べるようになっている、というのも一つ面白そうだなと思いました。


木内  10歳の子どもがいますが、マインクラフトやフォートナイトは、彼らにとってゲームの世界なんです。設計の世界は、ガチガチの世界ですが、あれがゲームと繋がることによって僕らの子どもの世界は、見え方が僕らとは180度違う見え方をするんだな、と思いました。そういった僕らが知らない中で、ゲームと繋がることによって、色々な敷居が下がってきていることは、今日初めて見たので、あれでゾンビゲームができるというのは面白いと思いました。



西村  自分の家で、デジタル上でゲーム課金ができる、そういう新しい家賃収入の仕組みを『On-site X』が提供できるのも良いですよね。こういう妄想とかも語れるような場になっていくと良いなというふうには思います。

改めて、須山さんと木内さんからも『On-site X』に期待すること、どういう人が来てほしいか、を伺ってもよろしいでしょうか?


須山  私は出身がシステム、IT業界なので改めて感じますが、日本の建設業界は非常にレベルが高いです。世界でも、日本の建築というのは、やっぱり最高水準ですし、IT業界に比べて、品質に対する考え方が一桁高いです。ぜひこの高い水準の業界に入ってきてほしいと思います。僕も、来た時にすごくびっくりしました。ぜひスタートアップの方、相当数がIT関連の会社の方が多いと思うんですけど、ぜひIT業界の方は、建設業界というのは非常にスケール感があって、社会的インパクトもあるし、経験が生きる分野だと思っていますので、ぜひ中に入って、建設業界の中でそのスキルを生かしてもらいたい、というのが私の思いですね。


西村  素晴らしい。今のお話を聞いていると、もちろんスタートアップに来て欲しいですが、色々とスキルあるフリーのエンジニアにも、この『On-site X』から出てくるデータで、オープンなものがあったら、それで遊べるとか、色々とエンジニアリングのスキルアップのためにも、非常に活用できるような場所になると素敵だな、と今の須山さんのお話を聞きながら感じました。


木内  我々、すごく本社が古かったので、一年半前ぐらいに本社を建て直して、それを機に、ノートパソコン、タブレットやスマートフォン、社内の情報システムを大幅に見直しをしました。社内にいる人間はすごく働き方が変わったと思っていましたが、現場では社内の人間よりも職人さんたちと連絡を取っています。したがって、今、L is B(株式会社L is B)の『direct』を別に入れる話をしています。テクノロジーを持っている会社との付き合い方のヒントは、新しいシステムやツールを入れた時に、我々も当然そのサービスに対して、ある程度変えなければならない部分もありますが、スタートアップ側も少し我々に合わせてバージョンアップをしていただかなければならない、と感じています。

私、最近、本当に、色々なテック系企業の経営者の方と話をしていて思うのが、相手はすごくバージョンアップに対して前向きです。特に、「現場の困りごとをもっと聞かせてください」と言われます。現場の中での共通項が多く、そこに対してのバージョンアップは、我々だけではなくその先には大きな現場が控えていることを僕らは知りませんでした。したがって、使いやすいように我々が変える部分と、ある程度、我々が使いやすいようにシステムを変えてもらう部分の中で、良い意味で並走してくれるスタートアップをどうやってコミュニティの中で探して付き合っていくか、そのトライアンドエラーをやることによって、ボトルネックや課題の可視化、言語化が段々と社内のなかで上手になっていくんじゃないか、とすごく期待をしています。


堀内  囲い込みたがる方々って、やっぱりいらっしゃいます。スタートアップは、一社の課題を解決すると、後ろに1万社控えているから、そこでビジネスがスケールするという考えで立ち上げるものなので、一社で囲い込もうとすると、じゃあ1万倍払ってください、という話になり折り合いません。すでに3社揃っていると、「囲い込みしません」宣言をしているようなものです。「どんどん新しいものを作って欲しいです」と要望を出すと、意思決定も早いしスタートアップとしては寄りやすいコミュニティになると思います。



「On-site X」に参加してほしい企業・人材とは

西村  さて、河田さんから、これからの展望などを教えていただいてよろしいでしょうか?


河田  今回立ち上げたコミュニティには、本当にチャレンジングな建設会社、若い経営者を中心に入ってもらいたい、と思っています。スタートアップの方には、我々の課題を解決することにビジネスチャンスがあります。我々がDXを実現した先に、建設業として地域や社会に対してもっと違う形で貢献していきたい、という思いを皆持っているので、スタートアップのテクノロジーを使って入ってくれると、業界が変わって、社会が良くなることに一緒にチャレンジしてもらえると、凄くありがたい、と思っています。

僕らもそういうコミュニティになるように頑張りますが、そういう心意気の企業のコミュニティができると最高に良いな、と思っています。


西村  ありがとうございます。皆様の取り組みを伺って、本当に感動しておりますし、ぜひ“TECH BEAT Shizuoka”としても応援をしていきたいです。来年は、1社あたり3社のマッチング商談の結果をここで発表して欲しいと、プロデューサーが言っておりますので、ぜひ、そちらも一緒に作っていければと思います。ぜひ引き続き、よろしくお願いいたします。


堀内  この企画に最初から関わらせていただいて、“TECH BEAT Shizuoka”もそうですし、『On-site X』も非常にいい取り組みになると信じて私も頑張ってやっていきたい、と思っています。ここにいらっしゃる皆さんは、このお三方を掴まえて、せっかくオフラインで開催できた、3年ぶりにできた会なので、この機を逃さず、ガシガシ連絡を取っていただければ、と思っております。

ぜひ、せっかくこれだけの方に集まっていただいて、機会を与えていただいていることもありますので、ぜひよろしくお願いします。